ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.88

水菓子 その五

「キョクセン ノ ゼイタク」

 Aくんは、曲線が好きだ、と、よく言っていた。曲線がもつ、その優しくてユルリとした感じが好きなのだそうだ。

 大学時代、ある学生が、角(カド)という角(カド)を全て取っ払って、曲線にした部屋を考案した。子どもがケガをしないように、という理由からだ。私は「素晴らしい!」と思ったのだけれど、教授は、「安全すぎる環境の中では、子どもは成長できない」と、そのグッドなアイデアを全否定した。教育畑の先生であったからだな、きっと。そりゃそうなのかもしれないけれど、私は、私なりに、その学生の優しさにジンワリと感動していた。

 現代は、(悲しいかな)直線の時代だと、そして、結果を焦る教育界もまた然り、だと、嘆くAくん。重ねて、本来この国は曲線の国なのだ、と少々語気を強める。

 たしかに、コミュニケーションもユルリと曲線的だ、そんな気がする。古くから「急がば回れ」などと言われてもいる。まさに曲線の美学、実に贅沢な美学ではないか。手っ取り早く済ませてしまえばいいところを、あえての「急がば回れ」、コレこそが、この国の美学であり美意識なのかもしれない。

 緩やかな曲線、そんな「私」を目指したい。そうした思いが、ユルリユルリと私の体内に沁み込んでいく。(つづく)