ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.724

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と六十五

「アイシュウ ノ カツオブシケズリキ」

 この際、衛生的にどうのこうのなどということはどうでもいい、と、思わしてくれるほどの旨味のカタマりを、魔法のように生み出すスーパーツールだったんだ、と、懐かしむように、Aくん。

 Aくんが宣うところの、その、衛生面では少々問題はあるかもしれないものの、そんなネガティブな懸念をアッサリと吹き飛ばすだけの、旨味のカタマリを生み出すツールとは、一体、ナンなのだろう。

 「使い込まれたその木製の旨味のカタマリ製造器は、経年劣化で角も取れて、見た目は随分と黒ずんできてはいるんだけれど、その触り心地は優しく、手にも馴染んで実にいい感じなんだよね」

 Aくんの熱き語りに、更に一層ズンズンと、期待と興味が誇張する。

 「刃の調整もまた、結構、キモで、当然、人それぞれコダワリもある」

 歯?

 「スーパーで売られている、おそらく機械削り、の、袋入り花かつお、も」

 あ~!

 「それはそれでいいのかもしれないけれど、旨味のカタマリのそのレベルが、同じ土俵では語れないほど、かけ離れているわけよ」

 刃、か~。

 鰹節削り器の、刃、だ。

 「鰹節削り器、ですよね」

 「そう、鰹節削り器。言わなかったっけ」

 「旨味のカタマリ製造器、としか」

 「言わなかったかな~。ま、いいや。で、とにかく、ホントに、比較にならないほど旨かったんだよね、ソレが」

 遠い昔の我が家の鰹節削り器、その記憶がユルリと蘇る。

 「我が家にもありました、鰹節削り器。幼い頃、私が、その担当で、母親に頼まれて、なぜか、あたかもベテランの職人みたいな顔をして、削りに削っていたんです。でも、いつのまにか使わなくなった。使われなくなった鰹節削り器は、次第に食器棚かナニかの奥の方にズリズリと追いやられて、そのまま私の記憶からも」

 「消えちゃうんだよな~」

 消えてしまう。

 なぜ、消えてしまったのだろう。

 なんだか少しイヤな気持ちになる。

 「コレもまた、あの、ひたすら便利さやら利便性やらのみを追い求める怪獣ベンリザウルスの仕業(シワザ)なのかもよ」

 ベンリザウルス、か~。

 「誰の舌にも一目(イチモク)、いや、一舐め(ヒトナメ)瞭然、ほどの、その旨味の、旨さの、違いがあるにもかかわらず、消えてしまう。コレなんだよ、コレ。哀愁の鰹節削り器に限らず、この国は、アレもコレもが、まさに、あの、現代社会における利便性の申し子、ベンリザウルス、に、喰い散らかしまくられた、その、成れの果て、ってことなのかもしれないな」

(つづく)