ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.79

食事(香の物) その弐

「チョトツモウシン チョットモウシン」

 裏山でイノシシと出くわした(どんなところに住んでいるのだ?)、とAくん。しかも、夫婦イノシシズ。妻イノシシは、優しそうな佇まいであったようだが、夫イノシシは、やたらとデカくて黒くて筋肉質。出くわした瞬間、おもわず反射的に(絶対に勝ち目なんてあるはずもない、にもかかわらず)グッと両手を握りしめてファイティングボーズを、らしい。  

 「それ、ダメでしょ、完全に夫イノシシを挑発している」、と私。すると、「勝てるような気がしたんだよな~」、と、その瞬間を振り返るAくんは、間髪入れず、「実際、夫婦イノシシズは退散したわけだから」、と、かなり誇らしげに言い足した。

 そんなAくんのちょっとしたイノシシ~な自慢話を、簡単には認めたくはないものの、そういえば、ガンガン強気に攻めまくるイメージのイノシシではあるけれど、本来は、神経質で臆病な動物だと、聞いたことがある、ということを、そのとき、私は思い出したのである。

 一般的には「猪突(チョトツ)猛進」などと言われているが、それは、止むに止まれず仕方なく、イヤイヤながら、もしくは気が動転して、突進したに過ぎないのであって、ホントのところは「チョット猛進」なイノシシたちなのだ、ということ、なのかもしれない。

 私のこの「チョット猛進イノシシ」理論に、なんとなく更に気を良くした様子のAくんは、「うまいな~これ」と言いながら、胡瓜の古漬けを(ホントに美味しそうに)ポリポリと味わっていた。

 たしかに、この店の胡瓜の古漬けは(妙に)美味しい。

 Aくんの、そのポリポリという美味しい(そして、目一杯「平和」な)音を思い出しながら、我々が身を置くこの人間社会の中で生息する怪しい「イノシシ」たちのことを、私は、ボンヤリと考える。

 ひょっとすると、豪快な「猪突猛進」タイプに見えるシモジモじゃないエライ人たちも、実は、肝心要のコトなど、到底ナニもできそうにない、小心な「チョット猛進」タイプだった、なんてことも、それほどオカドちがいではない、のかもしれないな。

 「チョット猛進」タイプの「猪突猛進」、チョット危ない気がする。(つづく)