ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.52

止め肴 その五

「オトナシイ モンダイ」

 小学生の頃、私は、基本、授業中、自分の世界に没入してしまっていたため、すでに習っていたはずの様々な事柄に、テスト時に初めてご対面、ということが頻繁にあった。先生たちにはタイヘン申し訳なく思っているが、それほど、授業中、ナニも聞いていなかったのである。

 たとえば、漢字テスト。

 おそらく、授業で、既に習った漢字なのだろうけれど、私の場合、たいていの漢字は、テスト時に初対面なのだ。ナゼにその漢字なのか、ナゼにそう読むのか、たいていは、テストの後で「な~るほど~」と、感心、納得する。しかし、稀に、「んんんんん?」と、思ってしまう漢字との出会いも、もちろん、あったりする。

 そう易々とは感心も納得もできない、まさに、ナゾがナゾ呼ぶナゾナゾ漢字ワールドなのである。

 そんな、ナゾがナゾ呼ぶ漢字の一つが、「オトナシイ」。

 この「オトナシイ」。当時、勉強嫌いの純粋無垢な少年であった私は、テスト中、悩みに悩み、考えに考え抜いた末に、「音無しい」と、かなりの自信でもって書いた。のだけれど、悲しいかな、残酷にも真っ赤な❌が容赦なく、その、返ってきた解答用紙の「音無しい」の上に。すぐさま、隣の席の友だちの解答用紙のその⭕の下に書かれた「オトナシイ」の漢字を見て、心底、愕然としたことを、今でもハッキリと覚えている。

 「大人しい?」、 「大人?」、 「しい?」。

 そのときの私には、 「大人」と「おとなしい」とが全くもって結び付なかった。クラス中(もちろん先生も)が、グルになって、ふざけているのではないかとさえ思ったほどである。そして、あれから随分と年月が経ったが、今でもその二者は結びつかないままでいる。

 たしかに、騒々しい大人はいただけないが、「おとなしい」な大人は、もっといただけない。

 一度、Aくんに、「どう思います~?」、と、問うてみたことがある。

 すると、「おもうツボかもしれないな~、大人しい大人は都合がいいから」、と、少し離れたトコロから、弱小動物をジッと狙っているエラそうなライオンを、キッと睨みつけるかのような、そんな鋭い目で、Aくんは、静かに、ユルリと、私の質問に答えたのである。(つづく)