ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.645

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十六

「ミツガミツヨブ ミツ ノ アジ」

 この国に限らず、文化なんて、そのほとんどが「ミツ」あっての文化だろ、とAくん。

 「ミ、ミツ、ですか」

 「そう、密集、密度、の、ミツ、ね」

 「ミツ、密。ん~・・・たとえば、密が文化を生み落とす、みたいな、そういう感じですか」

 「そうそう、そういう感じ。でもね、密集の密ではあるのだけれど、単なる物理的な密集という意味じゃない」

 密集以外の「密」?

 「陰も陽も織り交ぜた、多種多様な価値観、哲学、美意識、心、の、優位とか劣位とかとは無縁のごちゃ混ぜ感満載の共存こそが、文化の源である、と、思うんだよな」

 ごちゃ混ぜ感満載の共存・・・。なるほど、単なる人の集まりではない、ということか。

 「たとえば、ナンらかの圧力によって、不幸にもワンカラー化されてしまったような人間が、いくら集まったところで、その密から生み落とされるモノなどナニもないだろう」

 ナニも生み落とされない、とまでは言わないが、たしかに、ワンカラーの密は密であらず、と、言えなくもない、か。

 Aくんが宣うところの、物理的な密集という意味じゃない、の、その意味が、なんとなくながらもわかったような気がする。

 「つまり、文化を生み落とすホンモノの密は、まさに、密が密呼ぶ蜜の味、だということだ」

 ミツがミツ呼ぶ・・・、ミツの味?

 「な、なぜ、ミツの味なのですか」

 「ハニー(honey )には、甘いものという意味以外に、素晴らしいもの、って意味があるらしいんだよな。つまり、密から生み落とされた素晴らしいもの、という意味からの、蜜の味」

 密が密呼ぶ蜜の味、か~。

 仮に、トンでもないコトが起ころうとも、そんなトンでもないコトごときに怯むことなく、ハニーな文化が、密の中からドクドクと生み落とされる。生み落とされまくる。そんな密が密呼ぶ蜜の味なら、ホントに素晴らしいだろうな。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.644

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十五

「ゲンバダロ ゲンバ」

 現場だろ現場、とAくん。どの現場も、ごく一部の、どうしようもない愚か者は別として、ある意味、命を懸けてやっているんだ、と、いつになく、というか、いつも以上にかなり熱い。

 「ひょっとして、それもまた、優位、劣位、ですか」、と、勘ぐる私。

 「あってはいけないことだけれど、管理する側が、勝ち組。される側が、負け組。と、本気で思っている人たちが、残念ながら、いるってことだな」

 勝ち組、負け組、か~。

 以前、どこかの国のシモジモじゃないエライ人が、臆面もなく、そんな、勝ち組負け組理論をぶちまけていたことを思い出す。その、勝ち組負け組という言葉が、いま再び勢いを盛り返してきたような気がしたものだから、ナニやらズンと気持ちが重くなる。

 「どのような職業であったとしても、組織の末端であり最前線である現場が、イキイキと、ノビノビと、ルンルンと、エネルギッシュにアグレッシブであってこその、この国の、この星の、あるべき組織の姿だろ、と、僕は思っている」

 「にもかかわらず、そうした現場を、万が一にも負け組などと、軽んじ、蔑(サゲス)むなどということが罷(マカ)り通るとするなら、心底、絶望的な気分にさえなりますよね」

 「そもそも、出世、というものを、勝ち組、と、考えてしまっていること自体、大いなる誤解であるわけだ」

 「違うのですか」

 「違うね、全くもって違う。そもそも出世とは、煩悩からの解脱を意味する言葉。つまり、そういった、勝ちとか負けとかから解放されたその先にあるものなんだ」

 いつのまにか、真逆のものに姿かたちを変えてしまった、ということなのだろうか。

 「出世って、どちらかというと、むしろ、煩悩が結実した塊(カタマリ)、といったイメージですよね」

 「本来あるべき姿の真っ当な出世を成し遂げ、煩悩から解脱した者だからこそ、現場の隅々まで見渡すことも、一人ひとりの心の有りようを理解することも、いま、なすべきことを行うことも、できるってもんだろ」

 なるほど。

 Aくんが宣う通り、そうでなければ、最前線の現場が、イキイキ、ノビノビ、ルンルン、であることなど、あり得るわけがない、と、私も思う。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.643

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十四

ジェンダー?」②

 気が付けば今回も、ご多分にもれず、私は、「結局のところ、ジェンダーってナンなのでしょうね」、と、宣っている。

 理解できていたようでいて、実際にはナニも理解なんてできていないがゆえの、この、毎度毎度繰り返される、私の問い掛けなのである。

 そんな私にAくんは、ほんの少しの沈黙のあと、やはり、と、いつもの如く、愚かなる人類がつくり賜うた愚かなる社会の格差について、ユルリと語り始める。

 「優位と劣位、だな」

 「優位、と、劣位、ですか」

 「そう。たとえば、ごく身近なところで、腕力や体力や学力や容姿、さらに、障がい、疾病、さらにさらに、家柄、血筋、国籍、人種、宗教、・・・挙げ出すとキリがないが、そんな中の一つとして、ピリピリとソコにあるのが、性別、なんだろうな。本来ならば、そういったモノ全てを取っ払った素の個人がどうであるのか、が、重要であるはずなのに、むしろ、そういったモノでその個人を語ろうとする、そんな、とてつもなく気持ち悪いコトに、この社会は、なってしまっている、ということだ」

 たしかに、とてつもなく気持ち悪い。

 「さらにさらにさらに恐ろしいコトに、優位に立つ気持ち良さが、劣位を叩く気持ち良さにまで繋がっていく、という罪深いオマケまで付いてくるものだから、ホントに厄介なんだ」

 劣位を叩く気持ち良さ、か~。・・・

 「ナニナニはコウあるべき、コウあらねばならぬ、とか、コウでないことが問題、だからダメなんだ、とか、という、そんな上から目線の、根強い差別意識に裏打ちされた独善的なセリフたちが幅を効かせているのもまた、劣位を叩くダークな気持ちの良さのなせるワザなのかもしれないな、おそらく、いや、きっと」

 どこまでも果てしなく気持ち悪い、その、ナンともカンともな差別の闇に、いつものように、繰り返し繰り返し、ウンザリする。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.642

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十三

ジェンダー?」①

 この国に、この星に、差別というものが存在していなければ、ソンなヤヤこしいことにはならなかったのではないだろうか。

 しかしながら、いかんせん、現実は、見事なまでに残念まみれに、差別が、歴然と、強烈に、古(イニシエ)より存在し続けている。

 だからこそ、このところの、巷を、賑わしている「ジェンダー」問題に対しても、どうしても、私もAくんも、その、あまりのヤヤこしさのために、敬遠しがちだ。

 ナゼ、ソンな、消極的丸出しみたいなことになってしまったのか。 

 おそらく、それは、長い歴史の中で、歪んだ価値観が幾重にも折り重なるように積み重なって、「圧倒的な優位」というものをつくり上げたということに起因するのだろう。

 圧倒的な優位。この、悪しき得体の知れないモノが、実に厄介なのである。

 たとえば、本人の意思とは関係なく、私がAくんが、圧倒的な優位の側に組み込まれたとしよう。その時点で、すでに、罪を背負わされてしまっているのである。だからこそ、不本意ながらも優位側に立たされた者は、より慎重に、深く、己の考えを整理しきっておく必要がある、と、思わざるを得ない。

 あらためて、そんなヤヤこしいことをあれこれと考えてみなければならないほど、この世の中は、ヤヤこしさがヤヤこしさを呼ぶヤヤこしさヤヤこしさワールドなのである。そして、私もAくんも消極的丸出しみたいなことになってしまっているのだろう。

 それでもときおりAくんと、この話題に触れることはある。

 そのときは必ずと言っていいほどそのどこかで、どちらからともなく問い掛ける。

 そもそも、ジェンダー、って、ナンだ?

(つづく) 

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.641

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十二

クロウタドリ!」②

 実は、同じように、この曲だけは特別という一曲が、私にもあるのだ。

 「それほどまでに熱く、ではないかもしれませんが、私にもあるのです。ナゼか苦手なザ・ビートルズ、の、数多ある曲の中の、ナゼかスペッシャルな一曲が」

 「ほ~、興味あるな~、その一曲」

 「それが、♪ブラックバード、なのです」

 「あ~、♪ブラックバード、ね」

 「ご存じですか」

 「もちろん」

 「ナゼかこの曲だけは、初めて聴いたときからずっと忘れられなくて。アコースティックギター一本で勝負します、という、その潔さも、そこはかとなく漂ってくるその静かなるパッションも」

 「歌詞も、かなり、深いしね」

 歌詞?、歌詞のことなど考えたこともなかった。

 「歌詞、ですか」、と、おもわず聞き返してしまう。

 「よくある惚れた腫れたのラブソングじゃない、だろ」

 「そうなのですか」

 「おそらく君がなんとなく感じていた、その静かなるパッションってヤツも、そのあたりからジワジワと滲み出ていたものなのかもしれないな」

 「ブラックバードクロウタドリ、かな、が、ナニかの比喩だということですか」

 「そうそう、そういうこと。そもそもその曲って、アメリカの黒人たちの公民権運動に触発されてつくられたらしいし。だからこそ、それゆえに、その、鳴き声の美しさに定評があるブラックバードクロウタドリに、その、黒人たちの思いを託したのだと思うんだよな~」

 クロウタドリの美しい囀(サエズ)りに、黒人たちの思いを、か~。

 「今、まさに、自由に向かって傷ついたその羽を羽ばたかせる・・・、たしか、そんな歌詞だっだと思う」

 難しいことはわからないけれど、なぜ、アコースティックギター一本で、静かに、淡々と、語り掛けるように歌ったのか、の、その理由(ワケ)が、不鮮明ながらもジンワリと、わかったような気がする。

 よし、と私、よせばいいのに、ココで一句、心の中で、詠む。

 

 さえざえと 

 さえずりずりり

 クロウタドリ

 

 悔しいけれど、Aくんの100万倍、私には、この分野の才能がないことに気付かされる。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.640

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十一

クロウタドリ!」①

 ザ・ローリング・ストーンズほどではないものの、なぜか苦手であったザ・ビートルズ。その、私とのキョリが、どうしても、なかなか縮まらなかったのである。

 当時、ウブで生真面目な少年であった私にとって、ヤンチャな前者とのキョリが縮まらないのは自然と言えば自然、ということになるのだろうけれど、どちらかというと優等生(っぽく見えていた)的な、そんな後者とのキョリが縮まらなかったことは不自然と言えば不自然、ということになる。

 ハードロック命のAくんもまた、きっと、えっ、ザ・ビートルズ?、合わないんだよな、聴いたこともねえよ、などと、吐き捨てるように宣うに違いない。

 「ザ・ビートルズ、なんて、聴かないですよね」

 「聴くよ」

 は!?

 「聴く?」

 「好きだよ、とくに、リンゴ・スター

 リ、リンゴ・スター

 「中学生の頃だったかな~、ラジオから聴こえてくるわけよ、リンゴ・スターが、あの朴訥(ボクトツ)とした声で、カッコよく、一本調子で歌い上げる♪明日への願い、がね。イッドンカムイ~ズィ~ ユノッ イッドンカムイ~ズィ~、オープニングからいいんだよな~。簡単さ、やってみれば簡単だってことがわかるってもんさ、といった具合に、とにかく、背中を押して押して押しまくってくれる名曲、だと、今でも思っている。さらに、独断と偏見バリバリで言わせてもらうとするならば、ザ・ビートルズというモンスターバンドの解散にへばり付く、目一杯重たいネガティブな諸々を、ヒョイと軽く拭い去って、次への扉を開け放つ、という、そんな、一つのエポックメイキングとなり得た象徴的な一曲、だと、も、思っているわけだ」

 いつもながらのワケのわからなさ満載だけれど、リンゴ・スターのその曲に対する熱き思いだけは、イヤというほどコチラまで、伝わってはくる。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.639

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十

「イイトコドリ!」

 「先ほどの、科学的な根拠なき楽観主義、の、申し子とも言われている新種の鳥類『イイトコドリ』が、このところ、そこかしこで、羽ばたいて羽ばたいてタイヘンみたいなんだよな」、とAくん。

 新種の鳥類?

 「イ、イ、イイトコドリ、ですか」

 「そう、イイトコドリ。ヘイキヨヘイキヨと鳴きまくり、恐れを知らない楽観主義を、スミからスミまでズズズズ~イと振り撒きまくる」

 鳥類型の妖怪?

 「またまた、妖怪、ですか」

 「場合によっては、その楽観主義のおかげで、天使にさえなり得るのだけれど」

 「でも、妖怪にも悪魔にもなり得る、ってことですよね」

 「致命的なことがあったりするからな~」

 致命的、か~。

 目先の、金儲け、利便性、生産性、合理主義、価格破壊、オキテ破りの規制緩和などなど、この社会、おそらく、その妖怪にとっての必要な「餌(エサ)」に、コト欠くことはなさそうだ。

 「他の妖怪たち同様、その妖怪鳥にとっても、この国は、この星は、棲みやすいということなのでしょうね」

 よし、とAくん、よせばいいのに、ココで一句、詠む。

 

 はばからず

 はばたきまくる

 イイトコドリ

 

 Aくんには申し訳ないけれど、この分野の才能は、多分、もち合わせておられないような気がする。(つづく)