はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十六
「ミツガミツヨブ ミツ ノ アジ」
この国に限らず、文化なんて、そのほとんどが「ミツ」あっての文化だろ、とAくん。
「ミ、ミツ、ですか」
「そう、密集、密度、の、ミツ、ね」
「ミツ、密。ん~・・・たとえば、密が文化を生み落とす、みたいな、そういう感じですか」
「そうそう、そういう感じ。でもね、密集の密ではあるのだけれど、単なる物理的な密集という意味じゃない」
密集以外の「密」?
「陰も陽も織り交ぜた、多種多様な価値観、哲学、美意識、心、の、優位とか劣位とかとは無縁のごちゃ混ぜ感満載の共存こそが、文化の源である、と、思うんだよな」
ごちゃ混ぜ感満載の共存・・・。なるほど、単なる人の集まりではない、ということか。
「たとえば、ナンらかの圧力によって、不幸にもワンカラー化されてしまったような人間が、いくら集まったところで、その密から生み落とされるモノなどナニもないだろう」
ナニも生み落とされない、とまでは言わないが、たしかに、ワンカラーの密は密であらず、と、言えなくもない、か。
Aくんが宣うところの、物理的な密集という意味じゃない、の、その意味が、なんとなくながらもわかったような気がする。
「つまり、文化を生み落とすホンモノの密は、まさに、密が密呼ぶ蜜の味、だということだ」
ミツがミツ呼ぶ・・・、ミツの味?
「な、なぜ、ミツの味なのですか」
「ハニー(honey )には、甘いものという意味以外に、素晴らしいもの、って意味があるらしいんだよな。つまり、密から生み落とされた素晴らしいもの、という意味からの、蜜の味」
密が密呼ぶ蜜の味、か~。
仮に、トンでもないコトが起ころうとも、そんなトンでもないコトごときに怯むことなく、ハニーな文化が、密の中からドクドクと生み落とされる。生み落とされまくる。そんな密が密呼ぶ蜜の味なら、ホントに素晴らしいだろうな。(つづく)