はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と三十四
「カクサン ト アジテーション ト シュウダンテキキョウキ ト センソウ ト」
「厄介なる、agitation(アジテーション)!」
ア、アジテーション?
な、なんだっけ、アジテーション、って。
「たとえば、個人が、居酒屋で、酒のチカラも借りたりしながら己の考えを宣う。しかし、その内容が、ダレかに対するトンでもない誹謗中傷にあたる、なんてこともあったりするわけ」
ある。
時折、「えっ!?」と耳を疑ってしまうような言動に遭遇すること、たしかにある。
「だけど、居酒屋でなら、今までなら、大抵の場合、その場にいる誰かが、『それ、ダメだろ』と戒めていたんだよな。もちろん、酒が入っているから口論になったりもするけれど、ま、ソレも含めて古き良き時代の一つの光景として、とくに問題もなく受け入れられていたわけよ」
ソレに関しては容易に賛同できる。
大袈裟かもしれないが、ソレこそが、居酒屋ワールドの醍醐味、素晴らしき存在価値だと思っている。
「少なくとも、ソコに、agitationが入り込む余地なんてなかった」
「ソレは、居酒屋で完結していた、ということですか」
アジテーションの意味は不明のままだが、思い切ってそう尋ねてみる。
「そう、その場で完結していた。ところがだ、今は、そうではないだろ」
そうではない、とは。
「アナログの代名詞のような居酒屋と違って、ネットの世界は、その場で完結なんてしない。つまり、広がりこそがネットの世界の醍醐味というわけだ」
お、お~醍醐味。広がりこそがネットの醍醐味、か~。
たしかに、コトと次第によっては一気に拡散する、か。
「そして、その広がりは、天使にも悪魔にもなる」
天使にも?、悪魔にも?、・・・なる、か。なる、な、。間違いなく、なる。ひょっとすると、その悪魔が、アジテーションってヤツか。
「分母が大きくなれば、当然、分子だって増えるだろ」
増える。
「居酒屋のような分母が小さな世界ではダレも賛同してくれないかもしれないが、分母が大きなネットの世界でなら、きっとダレかが賛同してくれる。そして、その賛同が、ネズミ算式に増えていくことだって大いにあり得る。と、いうことだ」
なるほど。
つまり、誹謗中傷としか思えないような言動も、場合によっては、コトと次第によっては、寄って集(タカ)って正義のベールに包み込まれていってしまうこともあるということか。
「拡散が、agitation、扇動、と、一体化して、最悪、ソコに、『集団的狂気』さえも生み落とす」
最悪の場合、集団的狂気さえも、か~。
・・・ふ~。
そうやって、あの時、この国は、一気に戦争へと突き進んでいったのかもしれないな。(つづく)