ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1140

はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と七十一

トーンポリシング?」

 「理詰め攻勢に、窮地に立たされた側の、一発逆転狙い、の」

 ん?

 「姑息な逃げ技」

 姑息な、逃げ技?

 「論点のすり替え

 論点の、すり替え?

 「一応、正論で、さり気なく情(ジョウ)に訴えかけ」

 一応、正論で?

 さり気なく、情に?

 「共感を、賛同を、得る」

 共感を、賛同を、か~。

 「そして、肝心要の論点を、煙に巻く」

 ん~。

 たしかに、姑息。

 「でも、この逃げ技。誰がやっても成功する、というわけではない」

 ん?

 「なんとなく人柄が良さそうで、高好感度なキャラをもち合わせた人物が、適任」

 ど、どこまで姑息なんだ。

 「元々が姑息な逃げ技だろ。ソレがバレてしまったら、もう、身も蓋も、元も子もない。だから、バレないように煙に巻けるだけの高好感度パワーが、必要なわけよ」

 高好感度パワー、か~。

 「その甲斐あってか、ま、たいていは煙に巻かれる。騙される。ソレが、噂の『tone policing(トーンポリシング)』」

 「ト、トーンポリシング、ですか」

 「そう。tone policing。肝心要の論点は等閑(ナオザリ)にして、そのtone、口調、論調、を、policing。取り締まる、口撃する」

 あ~。

 ようやく、なんとなく、呑み込めた。

 たとえば、圧倒的に正しい弱者が理不尽に追い詰められて、為す術(スベ)なく、致し方なく、声を荒げた、と、しよう。すると、ドコからドウ見ても正しいとは思えない強者が、気持ち悪いぐらいクールに、「落ち着きましょう。大人として、ルールを守って参りましょう」などと宣ってみせる。しかも、ソコに被せるように、「その通り!」と賞賛する取り巻きが、ご多分に洩れず、現れたりする。よくあるケースだ。そうやって、この国は、見事なまでに分断されてきたのだ。(つづく)