はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と七十一
「トーンポリシング?」
「理詰め攻勢に、窮地に立たされた側の、一発逆転狙い、の」
ん?
「姑息な逃げ技」
姑息な、逃げ技?
「論点のすり替え」
論点の、すり替え?
「一応、正論で、さり気なく情(ジョウ)に訴えかけ」
一応、正論で?
さり気なく、情に?
「共感を、賛同を、得る」
共感を、賛同を、か~。
「そして、肝心要の論点を、煙に巻く」
ん~。
たしかに、姑息。
「でも、この逃げ技。誰がやっても成功する、というわけではない」
ん?
「なんとなく人柄が良さそうで、高好感度なキャラをもち合わせた人物が、適任」
ど、どこまで姑息なんだ。
「元々が姑息な逃げ技だろ。ソレがバレてしまったら、もう、身も蓋も、元も子もない。だから、バレないように煙に巻けるだけの高好感度パワーが、必要なわけよ」
高好感度パワー、か~。
「その甲斐あってか、ま、たいていは煙に巻かれる。騙される。ソレが、噂の『tone policing(トーンポリシング)』」
「ト、トーンポリシング、ですか」
「そう。tone policing。肝心要の論点は等閑(ナオザリ)にして、そのtone、口調、論調、を、policing。取り締まる、口撃する」
あ~。
ようやく、なんとなく、呑み込めた。
たとえば、圧倒的に正しい弱者が理不尽に追い詰められて、為す術(スベ)なく、致し方なく、声を荒げた、と、しよう。すると、ドコからドウ見ても正しいとは思えない強者が、気持ち悪いぐらいクールに、「落ち着きましょう。大人として、ルールを守って参りましょう」などと宣ってみせる。しかも、ソコに被せるように、「その通り!」と賞賛する取り巻きが、ご多分に洩れず、現れたりする。よくあるケースだ。そうやって、この国は、見事なまでに分断されてきたのだ。(つづく)