はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と十八
「マイクロチップ ギムカ」
「ワンちゃん、ニャンコちゃん、からしてみれば、受難、ってことになるのかもしれないが」、とAくん。
ワ、ワンちゃん、ニャンコちゃん、の、受難?
「たとえば、災害時に行方知れずになってしまったりした場合なんかに、力を発揮するみたいなんだよね」
行方知れずになった場合に力を発揮する?
「首の後ろあたりに埋め込むらしい」
「発信器かナニかをですか」
「そう。どちらというと、発信器というよりは名札に近いかな。1センチ弱のマイクロチップという名札」
ワンちゃん、ニャンコちゃん、やらに、納得してもらえるように丁寧に説明をするわけでもなく、ある日突然、有無を言わさず埋め込むのだから、当人たち、いや、当犬、当猫、たちからしてみれば、たしかに、おっしゃる通り、受難、ということになるのかもしれない。
「その、マイクロチップの装着が義務化される、という」
「義務化、ですか」
「一般の飼い主ピーポーたちは、努力義務どまりみたいなんだけどね」
「努力義務どまり、なのですか」
「この感じ、この感じがスゴく多いような気がするんだよな~」
ん?
「相手がワンちゃん、ニャンコちゃん、に、限らず、人間ちゃんに対しても、ソレが、ホントに良いことなのか、リスクはないのか、どんなリスクが考えられるのか、その意味は、意図は、意義は、といった、丁寧な説明をすることなく、しかも中途半端に、とりあえずヤッてしまう」
「ホントにいいコトなら、必要なコトなら、時間をかけて懇切丁寧に説明をする。キッチリと予算も組む。そして、ヤルからには中途半端にしない。でないとダメだ、と、私も思います」
「ナニか後ろめたいコトでもあるんだろう、と、どうしても勘繰りたくなってしまう。だから、説明もほどほどにして、とりあえずヤッちまう。とりあえずヤッちまってから、ジワジワと真綿で首を絞めるように詰めていく、みたいな、そういう姑息な戦略が、手口が、この世の中、結構あったりするような気がしてならないんだよな~」
とりあえずヤッちまう、か~。
「いつか、更に年老いたこの僕にも、大した説明もされずにマイクロチップが埋め込まれる、というようなそんな日が、やって来るのかもな」
(つづく)