ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1105

はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と三十六

「ポップス! ポップス?」

 「可愛い顔してエゲツない。耳触りもキュートなのに捨て置けないほどダーク。そんな、ギャップ萌えまみれの悪魔の化身、ソレが、ポップス。聞いたことないかい」

 ポ、ポップス?

 初耳だ。

 「もちろん、ポップミュージックのことではないですよね」

 「もちろん、真逆に、違う」

 「じゃ、なぜ、そんな恐ろしいモノに、ポップスなどという可愛いネーミングをしてしまったのですか」

 「たまたま」

 「た、たまたま、ですか」

 「Persistent Organic Pollutants、の、頭文字をとって、POPs(ポップス)」

 「パ、パーシステント、オーガニック、ポポポポ」

 「ポリュータント。汚染物質」

 「オーガニックなのに、悪魔の化身、汚染物質なのですか」

 「オーガニックは有機有機は、そのあとにナニがくっ付くかで天使にも悪魔にもなる」

 有機

 天使にも、悪魔にも?

 あっ。そうだ、そうだった。

 「そういえば、あのPFAS(ピーファス)も有機フッ素化合物でしたよね」

 「そうそう。Forever Chemicals、PFAS(ピーファス)だったよな、たしか。君の話によれば、ソイツも、ポップスに負けないぐらいの恐ろしさ、だと」

 今宵、二度めの登場のピーファス。そのピーファスもポップスも、ナゼか可愛いネーミング。不思議だ。その危険性を訴えたいのなら、せめて、ビーヴァズ、ボッヴズ、ぐらい、濁音まみれにしておかないと。と、一瞬、思いはしたけれど、頭文字だから仕方ないか。口に出さなくて良かった。と、コッソリ、安堵する。

 「でも、ようやくココにきて、より安全なテフロン加工のモノも出てきてはいるみたいです。出てきてはいるみたいですけど、いい機会だと思って、ついに、鉄のフライパンに切り換えたんです」

 「ほ~。で、どうだい、使い心地は」

 「なんといっても丈夫ですから、思い切ったプレイはしやすいですね。でも、油は、以前に比べると、かなり多めに使います」

 「少ない油で、は、テフロン加工のフライパンのメリットの一つでもあるからな。ちなみに僕は、ズ~ッと鉄のフライパン。学生の頃から同じヤツ。ちょっとお高かったけど、もう充分に元は取っている、かな」

 元、取りすぎでしょ、ソレ。

 もちろん、心の中で、だけ、とりあえず、コッソリ、ツッコミを入れさせてもらう。

 「とにかく、その両者の名前の中にもあるように、Forever。そして、Persistent。つまり、永遠なる、しつこさ。とくにポップスは、食物連鎖を通してサカナたちの体内に蓄積され、更なる汚染連鎖を引き起こしていく」

 永遠なる、しつこさ、か~。

 可愛いネーミングにはトゲがある。と、いうことか。しかも、エゲツないほど恐ろしい悪魔のトゲが。

 「より良い社会のために人類がつくり出したモノが、結果として、この社会をより悪くするモノになってしまったわけだからな。皮肉だよ、まったく」

(つづく)