はしご酒(2軒目) その六十六
「カミヒコーキ」
幼少の頃、他にすることがなかったのか、と、突っ込みを入れられそうなぐらい、紙ヒコーキを折っては飛ばし、折っては飛ばし、喜び、悦に入りまくっていた。
数多ある折り紙の中で、空を飛ぶことができた折り紙は、紙ヒコーキだけだった。それゆえに、空飛ぶ紙ヒコーキは、私にとって特別なモノであったのだろう。
この紙ヒコーキ、折り紙であるだけに、その折り方が、もちろん重要事項なのだけれど、それ以外にも、紙の材質やら飛ばし方やら、さらには、風やら小雨やら、といった気象条件によっても、そのフライトスタイルは、限りなく無限に近づいていく。だから、無限に面白い。
一気にグ~ンと舞い上がる。
ス~っと地味にしつこく低空飛行。
同じところをクルクルとアクロバチック。
などなど、と、実に個性豊かで、バラエティにも富んでいる。
もちろん、いくら試みても不調の場合がある。その時は、いま一度折りなおしてみる、という手があるし、不覚にも雨で湿らせてしまった機体も、乾かす、という手がある。
でも、腹を立てたり、絶望したりして、機体をグチャグチャにしたり、破ったり、燃やしたり、そんな、たりたりたりをしてしまっては、さすがの不死身の紙ヒコーキも、お陀仏。一時の感情に振り回され、支配され、カッとなり、取り返しのつかないような暴挙だけは、くれぐれも避けなければならない。
そんなこんなの愛しの空飛ぶ紙ヒコーキ。なんとなく、人生と似ているようにも思えて。だから、人生もまた、無限に面白いのかもしれない。
そして、紙ヒコーキ、人生も、個性豊かでバラエティにも富んだ、スペッシャルなフライトを終えたあと、・・・静かに、静かに着地する。
(つづく)