はしご酒(Aくんのアトリエ) その六百と二十六
「ゼンイ ヲ タブラカス」
「たぶらかす」
「えっ」
「たぶらかす、の、漢字、知ってるかい」
「た、たぶらかす、ですか」
たぶらかす。
いったい、どんな漢字なのだろう。
全くもって、見当も付かない。
「存じ上げないです」
「僕も、つい最近だよ、知ったのは」
ますます、興味津々。
すると、Aくん、本棚の前に置かれていたホッチキスで束ねただけの小さなノートをペラリと捲(メク)るや否や、マジックで、その漢字を書いてみせる。
う、うわっ。
「も、ものスゴい漢字ですね」
「だろ。僕も、初対面の時は、さすがに、ちょっと、たまげた」
たまげた?
ドコの方言?
でも、たまげた、が、いい。まさに、ドンピシャだ。
その、「たまげた」漢字が、コレ。なんと、言偏(ゴンベン)に「狂う」。「狂」が言偏の横に、不気味に、へばり付いている。
「言葉巧みに、騙(ダマ)し、惑わし、欺(アザム)き、弄(モテアソ)ぶ。その漢字、『狂ってる』としか思えない魂の有り様(サマ)を、見事なまでに言い表していると思わないかい」
思う。トンでもなく思う。
「この『誑(タブラ)かす』が、不本意ながらもグチュグチュと、この社会の中で増殖しつつある」
誑かす、が、増殖?
「善意を、誑かす、わけよ」
善意を、誑かす?
「人の善意を、いいように利用する」
それ、なんとなく、わかるような気がする。
「そして、理不尽に、裏切る」
裏切る、か~。
もちろん、真面目に頑張っておられる方々は、数多くいる。私の、数少ない政界系の知人も、ソコまでしなくていいだろ、と、いうぐらい、僅(ワズ)かな貯えながら、ほとんど持ち出しで、頑張っている。でも、悲しいかな、残念なことに、そうではない方々もイヤというほどいるのだ。
「政界、経済界、芸能界、その他モロモロの界界界で、その手の『誑かす』系たちは、気持ち悪いぐらい幅を利かせているんだよな~」
(つづく)