ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.752

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と九十三

「サイシュッパツシンコー!」

 「出発進行~!」

 当然と言えば当然なのだけれど、アカの他人のガールズ&ボーイズには、なかなか参加してもらえず、仕方なく、たまたまホン近くに住むイトコたちを掻き集めては、何本か繋げた縄跳びのロープでシュッシュポッポと電車ごっこ。ソレは、あの頃の数多ある「ごっこあそび」の中でも、間違いなく3本の指に入るスペシャルティだった、と、そんなあの頃を懐かしみつつ振り返る、Aくん。

 電車ごっこ、か~。

 「その記憶、残念ながら私にもあります」

 「ん?、なぜ、残念ながら、なんだよ」

 「い、いえ、なんとなく」

 少なくとも、この今、シュッシュポッポと電車ごっこ、なんて、まずお目に掛かれない。

 「ごっこあそびはイマジネーションあそび。これほどの知的なあそびは、そうあるもんじゃない」

 ごっこあそびはイマジネーションあそび、か~。なるほど、そうかもしれない。

 するとAくん、いま一度(ヒトタビ)、「出発進行~!」、と、先ほどよりも30%増しにパワーアップして、威勢良く、定番の掛け声を発したと思ったら、そのまま、あの稀代の名曲を声高らかに歌い出す。

 ♪うんてんしゅは、き、み、だ

  しゃしょうは、ぼ、く、だ

  あ~とのよにんがでんしゃのお、きゃ、く

  お~のりは、おはやっく

  うごきます、ちんちん

 うわっ、懐かしい。コレまた悔しいけれど知っている、どころが、歌っていた。

 「なぜだかわからないんだけれど、元気が出るんだよな」

 元気が出る、か~。

 「元気が出せなくて、踏ん切りがつけられなくて、躊躇してしまって、その一歩が、どうしても踏み出せない、そんな時の、この、出発進行~!、は、背中をドンと押してくれるような気がする、わけ」

 たしかに、押してくれるかもしれない。

 「この年になると、出発進行~!、というよりは、むしろ、どちらかというと、再出発進行~!、だけどね」

 再出発進行~、か~。

 あの頃を思い出しつつ、またまた心の中で、思いっ切り掛け声を発してみたくなる。

 再出発進行~。

 再出発、進、行~!

(つづく)