はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と九十三
「サイシュッパツシンコー!」
「出発進行~!」
当然と言えば当然なのだけれど、アカの他人のガールズ&ボーイズには、なかなか参加してもらえず、仕方なく、たまたまホン近くに住むイトコたちを掻き集めては、何本か繋げた縄跳びのロープでシュッシュポッポと電車ごっこ。ソレは、あの頃の数多ある「ごっこあそび」の中でも、間違いなく3本の指に入るスペシャルティだった、と、そんなあの頃を懐かしみつつ振り返る、Aくん。
電車ごっこ、か~。
「その記憶、残念ながら私にもあります」
「ん?、なぜ、残念ながら、なんだよ」
「い、いえ、なんとなく」
少なくとも、この今、シュッシュポッポと電車ごっこ、なんて、まずお目に掛かれない。
「ごっこあそびはイマジネーションあそび。これほどの知的なあそびは、そうあるもんじゃない」
ごっこあそびはイマジネーションあそび、か~。なるほど、そうかもしれない。
するとAくん、いま一度(ヒトタビ)、「出発進行~!」、と、先ほどよりも30%増しにパワーアップして、威勢良く、定番の掛け声を発したと思ったら、そのまま、あの稀代の名曲を声高らかに歌い出す。
♪うんてんしゅは、き、み、だ
しゃしょうは、ぼ、く、だ
あ~とのよにんがでんしゃのお、きゃ、く
お~のりは、おはやっく
うごきます、ちんちん
うわっ、懐かしい。コレまた悔しいけれど知っている、どころが、歌っていた。
「なぜだかわからないんだけれど、元気が出るんだよな」
元気が出る、か~。
「元気が出せなくて、踏ん切りがつけられなくて、躊躇してしまって、その一歩が、どうしても踏み出せない、そんな時の、この、出発進行~!、は、背中をドンと押してくれるような気がする、わけ」
たしかに、押してくれるかもしれない。
「この年になると、出発進行~!、というよりは、むしろ、どちらかというと、再出発進行~!、だけどね」
再出発進行~、か~。
あの頃を思い出しつつ、またまた心の中で、思いっ切り掛け声を発してみたくなる。
再出発進行~。
再出発、進、行~!
(つづく)