はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と六十九
「サイコウサイ! サイコウサイ?」
「以前からズッと、ナゼそんなことになるんだろう、と、疑問に思い続けているコトたちの中の一つ、ソレが、判決!」
は、は、はんけつ?
「裁判官。って」
あ、あ~、判決、か~。
「地方であろうが、高等であろうが、最高であろうが、裁判官であることに変わりはなく、基本、皆、同じだろ。と、僕は思っているわけ」
「同じ、ですか」
「巨大な権力の意に沿わない判決を下したがゆえ、だからかどうかは僕にはわからないけれど、とにかく、今は、人権派弁護士としての道を歩まれている元判事の話を聞いて、余計、そう思うようになったんだよな」
ん~。
一般的な思いとして、最高裁判事に一段一段上り詰めていく過程において、グングンと、そのジャッジの精度を上げていく、と、考えるのが妥当。と、思いたいところだけれど、実は、そうとは限らないんだ、とでも言いたげな話の流れである。
「最高に精度が研ぎ澄まされた判事が、最高裁判事になるのではないのですか」
「本気でそんなコト、思ってる?」
想定外の質問返しを喰らって、いささか動揺する。
「い、いえ、思ってないです」
咄嗟に、本音がポロリと。
「もちろん、それなりに精度も研ぎ澄まされていくのかもしれないけれど、ソレ以上に、その地位を、手に入れんがために、媚(コ)び、諂(ヘツラ)い、阿(オモネ)まくらなければならない、のだろうな、きっと」
媚び、諂い、阿まくらなければならない、か~。
「ほら、珍しく弱者に寄り添った判決が、と、喜んでいたら、結局、最高裁でドンデン返し、なんてコト、あるだろ。アレだよ、アレ」
ある、たしかにある。最高裁での逆転判決。
「ひょっとしたら、あの人たちの世界もまた、『勝ち負け』なのかもな」
「か、勝ち負け、ですか」
「そう。途上で、正義感などという青臭いモノに惑わされて、出世の王道から逸脱した者は、負け。そんなモノには目もくれず、御用判事として頂上まで突っ走り切った者が、勝ち。みたいな、そんな感じだ」
ん~、御用判事、か~。
真理と正義の申し子が、申し子でなければならない人たちが、御用判事とは。
Aくんのその指摘通りだとしたら、もう、この国の「法の支配」は、いよいよ、近々、終焉を迎えるな。
「中には、ギリギリのところで頑張っておられる方もいるにはいるのだろうけれど、でも、あえて、あえて一句、詠ませてもらおう」
ん?
「サイ高サイ、サイ高サイ低、サイ低サイ」
よっ!、Aくんに座布団3枚!
(つづく)