はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と六十
「チャンス ト ダキョウ ト ケツダン ト」
「弱者たちの前に千載一遇(センザイイチグウ)のチャンスが舞い降りてきたとしよう」
ん?
「ついに、やっと、起死回生の一手を打つ機会が巡ってきたというわけだ」
んん?
「しかし、数(カズ)を集めなければならない。弱体化したとはいえ、まだまだ敵は強力。もちろん時間的余裕なんて、ない。さ、どうする」
突然、「さ、どうする」などと言われても、私ごときに即答などできるはずもなく・・・。
「チャンスと妥協と決断。その狭間で、おそらく、当事者たちは、もうメチャクチャ揺れ動き、頭も心もグチャグチャッて感じなんだろうよ」
頭も心もグチャグチャ、か~。
千載一遇のチャンスなれど、単なる数集めでは先が見えている。ヘタをすると烏合(ウゴウ)の衆と捉えられかねないし、妥協もまた、魂を売り渡したと揶揄されかねない。と、なると、頭の中も心の中も、もう、グチャグチャになってしまうのも致し方ない。
「けれど、決断はしなければならない。決断は、あの人たちにとって、避けては通れない仕事、みたいなものだからな」
そうかもしれないが。
「ですが、時として妥協は、致命的な命取りになってしまいかねませんよね」
「つまり、無理やり、妥協なんてしない。数なんて集めない。というわけだな、君は」
そうなのだけれど、なんかカチンとくる。
「私は政治家ではありませんから、政治家的な価値観でモノゴトを見れないし考えられない。というか、そんな価値観で見たくも考えたくもない、ということです」
あ~。
毎度のことながら、強気に発言したあとは、いつだって、秒速で後悔してしまう。
「なるほど、なるほどね~。ま、ソレもまた一つの決断だからな」
かなり消極的な決断だけど。
「君が言うように、慌てて掻き集めたような『数』には必ず弱点があるだろうから。仮に、どうにかそのチャンスを掴んだとしても、その後、その土台からガラガラと崩れていく、なんてことにだってなりかねない」
で、でも。
「千載一遇のチャンスなんですよね。千年に一度しか巡ってこないチャンスに、ナニをするわけでもなく、ただ指を咥(クワ)えて眺めているだけ、というのも、ちょっと」
「マジ、悩ましいよな。だから、頭も心もグチャグチャになっちまうんだろうけどな」
グチャグチャになる。少なくとも私は、間違いなくグチャグチャになる。
「あの」
ん?
「あのヘンリー・フォードの言葉らしいんだけれど」
ヘンリー・フォード?、ん、んあっ、あ~、あのフォードの創始者、か。
「決断しないことは、時として、間違った行動より質(タチ)が悪い」
ほ~。
いかにも実業家らしい言葉ではあるが、ソレなりに的は射ている。
「『チャンスの前髪を掴め』という諺(コトワザ)もありますしね」
「あ~、女神フォルトゥーナには前髪しかなかった、ってヤツな」
「そ、そうなのですか」
「そうみたいだぜ。後ろ髪がないものだから、通り過ぎてしまうと、もう、掴めない」
そうだったんだ。知らなかった。
しかし、前髪しかない女神、って、いったい・・・。などと思ったりしているうちに、今度は、ほとんどキューピー人形にしか見えない女神が頭の中の天上から舞い降りてきて、またまた吹き出してしまいそうになる。(つづく)