はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と三十九
「スベテヲ トッパラッタ ワタシヲ スベテヲ トッパラッタ アナタガ」
「ソレはソレとして」
ん?
「ソレはソレとしてだ」
ん、んわっ。
比類なき唐突感はAくんの得意技だが、この強引な話題転換もまた、そうした唐突感に負けず劣らずの、Aくんならではの特筆すべき凄技なのである。
「たとえば、あの、日本国憲法14条。ソコで宣われている本人の本質とは全くもって関係のない付随的モロモロ、を、全て取っ払ったその人自身を、その中身を、そうした全てを取っ払ったあなたのその目で、耳で、頭で、といったコトこそが大事なんだと思う、わけ」
ん、ん、ん~。
ソレってかなり難しいコト。だが、難しいでは済まされないほど、悲しいかな、世の中、性別やら国籍やらといった付随的モロモロによって支配されているように思える。
「他人(ヒト)の言動、行動、を、ジャッジしなければならないその時に、そういった付随的なモロモロに、一切、影響されないコトが大切なのであって、コレこそが日本国憲法14条の精神だとも思っている」
他人の言動、行動、を、ジャッジしなければならない時こそ、日本国憲法14条、の、精神、か~。なるほど、なるほどな。
「できることなら、あの、『人種、信条、性別、社会的身分または門地』のあとに『好き嫌い』も付け加えてくれたら完璧なんだがな」
好き嫌い?
あ、あ~、好き嫌い、か~。
たしかにその「好き嫌い」ってヤツ、判断を狂わせがちだ。目を曇らせ、耳を詰まらせ、頭を鈍らせる。
「たとえ、たとえジョークでも、自ら、『私はナンチャラの女です』などと宣うべきではない。『全てを取っ払った私を、私の言動を、行動を、政策を、全てを取っ払ったあなたが、あなたの五感で、頭で、判断してほしい』で、なきゃ、ダメなんじゃねえか、ってな」
おっしゃる通り。
もちろん容易いコトではない。が、全てを取っ払った私を全てを取っ払ったあなたが、で、なければ、ダメだと思う。
「というか、ソレができねえ、って、もう、間違いなく憲法違反だよな」
(つづく)