はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と十一
「ナゼ アヤマレナイ ナゼ ヤメロトイエナイ」
誤報。
訂正。
謝罪。
自慢するわけではないが、そういう私も、幼少の頃、いや、もう少し高学年になっても、とにかく謝るのがイヤだった。
まず、己の非を認めて謝る。で、なければ、未来に向けての一歩を踏み出すことができない、と、わかっているのに、謝れない。母親にも何度も叱られた。というか、呆れ果てられた。そのことを、今でもリアルに覚えている。
「ナゼ、人は、己に非があるとわかっていても謝りたくないのでしょう」
「己に非があると?」
「謝らなければ次の一歩が踏み出せないのに、ナゼか、そう簡単には謝れない」
「己に非があると、なんて、本気で思っているのかね~」
えっ。
「己に非があるとなんて思ってないということですか」
「己に非があるとわかっていても謝れない時は、そりゃ、謝るわけにはいかない事情がイロイロとあるんだろうよ。しかし、おそらく、ほとんどの場合、己に非があるなんて思ってねえんじゃねえか、ってな」
ん~、己に非があると思ってない、か~。
私も、そうだったのかもしれないな。
だから、どんなに指摘されても、追求されても、ナニを仰(オッシャ)っておられるのか、サッパリ。それゆえ、理解も納得も、もちろん謝罪も、できない、か。
「つまり、ドチラにせよ謝らない、謝れない、と」
「そう、そういうことだ。とくに政治家。己に非があるとかないなんて全く関係なく、見事なまでに、ナニがナンでも謝らないよな~」
そう、謝らない。
見事なまでに、ナニがナンでも謝らない。
「もちろん、皆が皆というわけではない。己に厳しい政治家も数多くいる。だけど、謝らないヤツに限って、ヤタラと目立つわけよ」
そう、目立つ。
ヤタラと、目立つ。
ん、ん?
先ほどの、謝るわけにはいかないイロイロな事情、が、ナゼか、妙に、引っ掛かってしまう。
謝るわけにはいかない、そのイロイロな事情、の、その時って、いったい。
「先ほどの、謝るわけにはいかない時って、どんな時ですか」
「第三者」
「えっ」
「たとえば、ソコに、第三者が介入している時」
第三者の、介入?
「第三者を。つまり、お仲間を、グルを。裏切るわけにはいかねえからな」
裏切る?
己の非を認めて謝ることが、裏切る、ことに、なるとは。
「そんなお仲間なら、グルなら、サッサと裏切っちまいなよ、って。でなきゃ、アンタも同じ穴のムジナ扱いされっちまうぜ、って。僕なんかは思うんだが、悲しいかな、この世の中、そうは問屋が卸さないコトだらけだからな」
ホントだ。
悲しいぐらい、そうは問屋が卸さないコトだらけだ。
ん、んあ、あっ。
そ、そうか~。
だから、謝るわけにはいかない。
だから、「やめろ」と言うわけにもいかない。か。
なるほど、そういうことか。
Aくんが言うように、その理由が、ソコに第三者の介入があるからなら、まず、真っ当な行政運営なんてできないだろうな。
そう、できない。できるわけがない。
ジワジワと、フツフツと、その思い、確信に変わっていく。(つづく)