はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と八
「ジュウゴエン ゴジュッセン ト イッテミロ?」
「十五円五十銭と言ってみろ」
「えっ」
「15円、50銭、と、言ってみろよ」
な、なんだ?、ナニかの呪(マジナ)いか?
「100年ほど前、この国で、このフレーズが、選別に、差別に、虐殺に、使われたという」
ぎゃ、虐殺に!?
15円と50銭が、ナゼ、虐殺に、なのか。全くわからない。
「そのフレーズが、どう、虐殺に繋がっていくのですか」
「『排除すべき者』を炙(アブ)り出す装置として使われた、ってことだ」
排除すべき、者?
炙り出す、装置?
「まず、その根底に、dark(ダーク)でheavy(ヘヴィー)な差別があって。あるコトが切っ掛けで、その差別が、一気に、憎悪を覚醒。増幅。そして、残虐な集団心理を、同調現象を、引き起こす」
残虐な集団心理を、同調現象を、か~。
あっ。
たしか、そんな映画が、少し前、公開されていたような。
「『十五円五十銭と言ってみろ』。上手く発音できなかったら『よそ者』。よそ者は『排除すべき者』」
うわ~。
「そうなってしまうと、もう、誰にも止められない。狂気へと、虐殺へと、繋がっていくわけだ」
なんということだ。
「もちろん、御多分に洩れず、歴史修正主義者たちは、この事件を『捏造』扱いしているようだがな」
ん~。
あの人たちは、いつだって、気に入らない史実は、捏造だ~、でっちあげだ~、と、宣いがち。余程、受け入れてしまうわけにはいかないナニかがあるのだろう。
「そんなこのフレーズが、この現代の、選挙の、その最中にだ」
えっ。
「ある政党の支持者の口から飛び出たことに」
まさか。
「僕はね、驚きと同時に、いたたまれない悲しみを、大いなる憤りを、禁じ得ないわけ」
信じられない。
仮にソレが事実ならトンでもないコト。
ナゼ、そんな恐ろしいフレーズを、ナンの躊躇もなく、この今、発することができるのか。私ごときには難解すぎて、1ミリたりとも理解することができない。
「歴史修正主義。と、排外主義。とが、combine(カムバイン)、合体した時の、その、超、very bad(ベリーバッド)感、チョベリバ感。たるや、もう、絶望的な気分にさえなっちまうよな」
お~、チョベリバ。懐かしい。
チョベリバには申し訳ないが、もう、完全に死語。だとは思うけれど、その「合体」は、まさにチョベリバ。チョベリバが、一番、ビタッとくる。
あっ。
ひょっとすると、コイツもまた、先ほどの、結局は、所詮、自分ファーストの、自利自略。って、ヤツかも。(つづく)