はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と五
「ファーヴォ!」
「fervor(ファーヴォ) !」
えっ。
「craze(クレイズ) !、と、言ってもいいかもしれない」
「フィーヴァー(fever )?、クレイジー(crazy )?」
「いいや。fervor、craze 」
ダメだ。違いがわからない。
「ま、同じようなものだけどな」
ほっ。
「ジックリと腰を据えて、時間をかけて、クールに、見つめ、考えて、辿り着いたモノではなくて、あくまでも一時的な熱狂」
一時的な熱狂?
「そもそも、fervorの元々の意味は『沸騰する』らしいから」
ほ~、なるほど。
まさに、沸騰するが如くの一時的な熱狂、か。
しかし、Aくんは、ナニを語ろうとしているのか。
「僕はね、思うわけよ」
ん?
「選挙なんてものは、そんな、fervorであっては、craze であっては、ダメなんじゃねえか、ってな」
選挙?
一時的な熱狂では、ダメ?
ん~。
「でも、選挙は祭りのようなもの、と、いう考えもありますよね」
あっ、おもわず。
この国で、低迷し続けている投票率を上げようとするなら、そうした「祭り」気分っぽさもまた必要な要素のように思えて、つい。
「祭り?、祭り、ね~。投票率はソレなりに上がるかも知れねえが、だからナンだ、ソレがドウした、ってコトに、なりはしないか」
だ、だからナンだ。ソレがドウした。か~。
予期していなかったわけではないが、Aくんのそのカウンターに、一気に怯んでしまう。
「たとえば、次から次に登場する新顔たち。今までの政党にはない感じ。妙にシックリくる感じ。わかりやすそう。面白そう。なんかやってくれそう。なんとなく期待できそう。と、いった、そんな評価のほとんどが、雰囲気、ムードだろ」
雰囲気?、ムード?
「先ほどから何度も話題に上がっている『真っ当な土台』、が、ない状態での『ほとんどが、雰囲気、ムード』。危険だとは思わないかい」
んん~。
そういった雰囲気、ムード、だけで、突き進む、この感じ。あの時の、あの、ナチスの台頭に、似ているような気もしなくはない。いや、かなり、近いかもしれない。
「判断は冷静でなければならない。というか、冷静でなければ真っ当な判断は下せない。得体の知れない『熱』は、必ずと言っていいほど、その判断を誤らせる」
得体の知れない、熱?
判断を、誤らせる?
「何度でも言わせてもらうが。だから、だからこその学び。学び、あってこその選挙。学びなき『一時的な熱狂』選挙に、僕は、危機感しかない」
んん、ん~。
一時的な熱狂、が、もたらす、かもしれない、判断ミス。その判断ミス、が、もたらす、かもしれない、致命的な過ち。その過ち、が、もたらす、かもしれない、未来は、いったい・・・。
ん、ん、んわ、わっ。
私の背中の溝を、今、ゾッとするほど冷たいナニかが、一筋、這うようにツ~ッと流れ落ちた。(つづく)