ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1374

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と五

「ファーヴォ!」

 「fervor(ファーヴォ) !」

 えっ。

 「craze(クレイズ) !、と、言ってもいいかもしれない」

 「フィーヴァー(fever )?、クレイジー(crazy )?」

 「いいや。fervor、craze 」

 ダメだ。違いがわからない。

 「ま、同じようなものだけどな」

 ほっ。

 「ジックリと腰を据えて、時間をかけて、クールに、見つめ、考えて、辿り着いたモノではなくて、あくまでも一時的な熱狂」

 一時的な熱狂?

 「そもそも、fervorの元々の意味は『沸騰する』らしいから」

 ほ~、なるほど。

 まさに、沸騰するが如くの一時的な熱狂、か。

 しかし、Aくんは、ナニを語ろうとしているのか。

 「僕はね、思うわけよ」

 ん?

 「選挙なんてものは、そんな、fervorであっては、craze であっては、ダメなんじゃねえか、ってな」

 選挙?

 一時的な熱狂では、ダメ?

 ん~。

 「でも、選挙は祭りのようなもの、と、いう考えもありますよね」

 あっ、おもわず。

 この国で、低迷し続けている投票率を上げようとするなら、そうした「祭り」気分っぽさもまた必要な要素のように思えて、つい。

 「祭り?、祭り、ね~。投票率はソレなりに上がるかも知れねえが、だからナンだ、ソレがドウした、ってコトに、なりはしないか」

 だ、だからナンだ。ソレがドウした。か~。

 予期していなかったわけではないが、Aくんのそのカウンターに、一気に怯んでしまう。

 「たとえば、次から次に登場する新顔たち。今までの政党にはない感じ。妙にシックリくる感じ。わかりやすそう。面白そう。なんかやってくれそう。なんとなく期待できそう。と、いった、そんな評価のほとんどが、雰囲気、ムードだろ」

 雰囲気?、ムード?

 「先ほどから何度も話題に上がっている『真っ当な土台』、が、ない状態での『ほとんどが、雰囲気、ムード』。危険だとは思わないかい」

 んん~。

 そういった雰囲気、ムード、だけで、突き進む、この感じ。あの時の、あの、ナチスの台頭に、似ているような気もしなくはない。いや、かなり、近いかもしれない。

 「判断は冷静でなければならない。というか、冷静でなければ真っ当な判断は下せない。得体の知れない『熱』は、必ずと言っていいほど、その判断を誤らせる」

 得体の知れない、熱?

 判断を、誤らせる?

 「何度でも言わせてもらうが。だから、だからこその学び。学び、あってこその選挙。学びなき『一時的な熱狂』選挙に、僕は、危機感しかない」

 んん、ん~。

 一時的な熱狂、が、もたらす、かもしれない、判断ミス。その判断ミス、が、もたらす、かもしれない、致命的な過ち。その過ち、が、もたらす、かもしれない、未来は、いったい・・・。

 ん、ん、んわ、わっ。

 私の背中の溝を、今、ゾッとするほど冷たいナニかが、一筋、這うようにツ~ッと流れ落ちた。(つづく)