はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と七十一
「ハダカノオウサマ ハビコル」
「グリムもアンデルセンも、ホント、マジ、深いよな~」、とAくん。
グリム、アンデルセン、か~。
数時間前に、Aくんのこのアトリエにお邪魔させてもらったその時から気にはなっていたのだ。ソレは、小さいながらも、ソレなりに、プチ充実している目の前の本棚の、その中の何冊かの童話集。グリム、アンデルセン、そして、イソップ。ちなみに、個人的には、グリム。とくに『シンデレラ』。子ども向けにアレンジされたモノではない『シンデレラ』は、まさにホラー。そのホラー感が堪(タマ)らない。
「童話、というか、寓話だな。ソコには必ずナニかが込められている」
寓話、か~。
イソップあたりは、とくに、寓話っぽい、か。その教訓めいたトコロのせいかもしれないが、私は、イソップが苦手だ。
「中でも、アンデルセンの『裸の王様』。リアルな裸の王様たちが、以前にも増して蔓延りまくり倒し始めているこの現代社会だけに、実に興味深いんだよな」
裸の王様、か~。
「周囲が、理不尽な粛清を恐れて、王様が気分を害さないように、王様が望むコトを、王様が気に入るコトを、ただ、ひたすら、する。ソコには、もう、真っ当な批判も、助言もない。当然のごとく、王様は、己を有能な名君と思い込んでしまう。いそうだろ、この手の王様が、そこかしこに」
いそうだ。
あの県に、この国に、限らず、この星の、そこかしこに。
「ちなみにこの話は、詐欺師に『ばか者には見えない布地』を売りつけられる哀れなる王様の情けない話なんだけれど。ほら、巷を賑わしているある自治体のトップやら、その支持者たちやら、と、いった」
ん?
「その手のあの人たちからブイブイと聞こえてくるような気がするわけよ」
んん?
「『ばか者には見えない布地』、ならぬ、『ばか者には見えないのだ、この私の有能さが』、『ばか者には見えないのよ、あの人の素晴らしさが』、みたいな、そんな声が」
(つづく)