はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と六十七
「シンジツナンカ ドウデモイイカラ カゲキナコトヲ ヤッテクレ」
「あっ!」
「んっ?」
「スケアモンガー!」
「scaremonger?」
「先ほど、『恐怖』、『不安』を意味するスケアと『商人』を意味するモンガーとの合体がスケアモンガーだと」
「あ、あ~、scaremonger ね」
「少なくとも英語圏では古くから、『スケア』の拡散はビジネスになると思われていたと」
「誹謗中傷を垂れ流すピーポーたちをscaremonger と言うってことは、そうなんだろうよ。ソレほど間違ってはいないと思う」
もちろん、私も、同感。
おそらく、間違ってはいない。
「スッカリ忘れてしまっていたのですが、先日、あるニュース番組で取り上げられていたコトって、まさにそのコトなんじゃないか、って」
「ん?」
「クライアント、ワーカー、そして仲介業者。ビジネスとして、役割分担が見事なまでに出来上がっているらしいのです」
「ソコだけを聞けば、とくに問題はないように思うけれど、依頼が、商品が、『scare』だとすると、かなり厄介なコトになりそうだな」
「なります、なりまくります。もちろん、ドコからドウ考えても悪質なクライアントが罪深いわけですが、そのチェックがメチャクチャ甘いので、というか、そもそもチェックなんてする気があるのかどうか。で、当然の如く、どうしても、ワーカーも仲介業者も、皆、『グル』なんじゃないのか、ということになってしまうわけです」
「なるだろうな。ビジネスなんだからソレなりにカネ(金)も動いているだろうし」
「たとえば、カネのためなら、根拠なんてなくても、デマでも、デタラメでも、ダレかに有利になるような、ダレかを貶(オトシ)めるような、動画を、作成する」
「で、クライアントが拡散するか」
「上手い具合にやれば、選挙あたりで効果的に使えそうでしょ」
「使えそうだな。たとえば、『あの人は、実は、トンでもない人で、こんなトンでもないコトをしでかしていた、らしい』とか、『そんな噂を聞いたことがある』とか」
「仮に追求されたとしても、『支持者たちが勝手にやったこと。私は全く存じ上げない』、で、逃げ切れそうですし」
と、話しているうちに、あらためて、その姑息さに、陰湿さに、反吐が出そうになる。
するとAくん、「ん~」と重く唸りつつ、五島のジンをゴクリと。そして、苦いモノを吐き捨てるように。
「トにもカクにも、結局、カネ、カネ、カネ、なのかね~」
その「ゴクリ」に触発されるように、私も、五島のジンをチビリと。そして、苦いモノを思い起こすように。
「その番組での、ある、大学生でもあるワーカーの、『あくまでもカネを稼ぐ手段。仕事。クライアントからの、真実なんかどうでもいいから過激なことをやってくれ、という依頼もあるし』という言葉が、まさに、その、『カネ、カネ、カネ』を象徴しているように思えて、なんだか、憤りというよりは、むしろ、辛く、切なくなってきてしまいますよね」
そして、苦いモノを流すように、さらに、もう一口、チビリと。(つづく)