はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と六一
「ショクホウ ショウネン ショクホウ セイジカ」
すると。
太陽の光に揺れるような模様が美しいエメラルドグリーンのガラスのボトルと、水やら氷やら、ついでにドライフルーツみたいなヤツやらを、所狭しとお盆に乗せて、Aくん、舞い戻ってくるやいなや、開口一番。
「触法少年」
ん?
しょ、しょくほう、しょうねん?
「法に触れたとしても、たとえソレが犯罪行為であったとしても、少年によるモノであるということから、罪に、問われない」
ん、んあ、あ~。
「子どもたちによる犯罪の凶悪化。たしかに看過できないとは思うけれど、しかしながら、未熟で、未来もある少年少女たちを、大人たちと全く同じように罰することには、やはり、かなり抵抗がある」
抵抗はある。
もちろん、モヤモヤっとしたモノもあるにはあるけれど。
「子どもたちは、守られなければならない、ということですか」
そう、思い切って問うてみる。
「少なくとも触法少年は、守られなければならないと思っている。だって、触法少年は、たしか、14才未満だったはず。14才未満だぜ。そんなの、ほぼ、その原因、この社会にあると考えるのが普通だろ」
この社会にある、か~。
大いなる責任ある大人たちの、そのマネをしているに過ぎない、と、子どもたちに言われてしまったら、たしかに、返す言葉はないな。
「そんな14才未満の政治家が、このところ、増えてきたような気がしてならねえんだよな」
14才未満の、政治家?
「触法少年、ならぬ、触法政治家。だから、法を犯しても罪に問われない」
あ、あ~、そういう意味での、触法政治家、か~。
未熟で、未来もある政治家たちを、一般ピーポーたちと同じように罰することには、やはり、かなり抵抗が、・・・ないないない、あるわけがない。だけど、たしかに、そう簡単には罰せられないし、逮捕だってされない。そういう意味では、Aくんが言うように、触法政治家、なのかもしれないな。
「だけど、このジンは、触法ジンなんかじゃないぜ」
ん?
そう言いながら、Aくん、ほんの少し、ソレをグラスに注ぎ入れる。
「マズかったとしても罪に問われないジンではない、正真正銘、大人の、ジン」
ジン、か~。
ジンもまた、コレまで、ほとんど口にしたことがない。
「まずはストレートで」
申し訳ないが、ナンの期待もしないまま、まず、その香りを。
む、むわ~。
ド、ドコまでも爽やかなそのボトルの色が、そのまま香りになったかのような。
「まさにボタニカルたちの共演。いい香りだろ」
「はい、メチャクチャ癒されます」
そのまま口に運ぶ。
く、くわ~。
その香りが、そのまま、ギュッと凝縮されたかのようなクールでいてホットな液体が、ノドのあたりでブワッと爆発する。
「あの、五島の、海、空、土、が、見えてくる、香ってくる、沁み込んでくる、って、感じだよな」
「ですね」
五島の、地ビール、ならぬ、地ジン。クラフトジン。口にしてこなかっただけに他のモノと比べようがないが、ソレでも、この完成度は相当なモノだと実感できる。
「難しいことなのかもしれないが、このジンのように、触法政治家たちも大人の政治家であってほしいよな~」
そして、3倍ほどに薄めたそのジンで、「大丈夫、きっと大丈夫」と、Aくんと私、思いっ切り、前向きに、カンパ~イ。(つづく)