はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と十四
「ヨワイヒトヲ タスケル セイジ ノ クニハ オワリ?」
「弱い人を助ける政治の国は、終わり」
えっ!?
「弱い人が生まれない社会をつくる」
ん、ん~。
「前文と、後文。なんか可笑しくないかい」
可笑しい。
と、いうか、その前文、必要ないのでは。
「どなたの言葉か存じ上げませんが、前文のために、その真意が伝わり難(ニク)くなっていますよね」
「言葉が足らないんだよ。おそらく、気の利いたキャッチコピーで端的に、という思いだったのだろうけれど」
「誤解されますね」
「される。間違いなくされる。言葉の実践系のプロでなきゃならない政治家なんだからな。コレじゃ、誤解しかキャッチしない」
誤解しかキャッチしない、コピー。
それ、かなりヤバい。
「僕はね、前文は現実。後文は理想。だと思っている」
現実と、理想、か。
なるほど。
「彼が、その二つを余りにもサラリと続けてしまったものだから、その真意が伝わり難くなってしまった」
同感。
ナニを伝えたいのか、が、わかり難い。
「もちろん、理想は大切だと思う。弱者を生まない社会を目指す。僕も大賛成だ。勝った負けたの弱肉強食の新自由主義なんて必ず破綻する、と、マジで思ってもいる。でもね、まず、現実に目を向けろよ。今、この社会の中で苦しみもがいている弱者たちに目を向けなくて、手を差し伸べなくて、ナニが理想だ。ナニが理想の未来だ。現実を疎(オロソ)かにして、そんな未来、やって来るわけねえだろ」
そう熱く言い放った、Aくん、徐(オモムロ)に、火照った身体と心にグビリと滋賀の山廃純米を注ぎ込む。
ん~、・・・。
弱い人を助ける政治の国は、終わり、弱い人が生まれない社会をつくる、か~。
あらためて、もう一度、ユルリと心の中で繰り返してみる。
つまり、その場しのぎの対症療法ではなく完全治癒を目指した根本治療でなければダメだ、と、いうことか。
そう、根本治療。
対症療法で満足して根本治療に向けた不断の努力を怠るコトに対する、警鐘。筋論として正しいように思えるし、その思いも、けっして可笑しいものではない。
にもかかわらず、Aくんは、いつになく声を荒げてその言葉を非難する。ナゼなら、目の前に、痛みに喘ぐ患者たちがいるからだ。
つくづく思う。
言葉は難しい。己の思いを相手に伝えるコトは、本当に難しい。(つづく)