はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と四
「トンジンチ!」
「トンジンチ!」
えっ?
「トン、ジン、チ」
トンと、ジンと、チ?
初めて耳にする。
先ほどの、マイナンバーカードと緊急事態条項と愛国心の、不気味極まりないトリオ。に、続く、不運極まりない納涼三大怪談噺絡みの美女、トリオ。に、更に続く、新手(アラテ)のトリオのことか。それとも、まさかの豚肉料理のニューカマーか。いやいや、さすがにソレはないか。
「この星のそこかしこでトンでもなく大きな権力を握ってしまった権力者たちが、その魂たちが、万が一にも、そうしたトンとジンとチによって塗(マミ)れに塗れまくってしまったとしたら、その時は、もう、この世の終わりかもしれないぜ」
こ、この世の終わり?
ナニやら、その、トンとジンとチによるトリオ。トテツもなくトンでもないモノたちの極悪非道トリオであるようだ。
「その、トンと、ジンと、チ。って、いったい、ナンなのですか」
たまらず、尋ねてみる。
「三毒!」
「サ、サンドク?」
「そう、三毒。三つの、毒、poison(ポイズゥン)ね」
三つの、毒、とは。
それにしても、いつものことながら無駄に発音がいい。
「トンは、貪(ムサボ)る、貪欲、の、『貪(ドン)』。つまり、欲望」
なるほど、トンは貪欲の、貪、か~。
「そして、ジンは、瞋(イカ)る、瞋恚(シンニ)、の、『瞋(ジン)』。つまり、怒り」
シンニ?
全くもって耳慣れない言葉だが、多分、己に対する怒りではなく、他者に対する理不尽で身勝手な怒りを意味する言葉なのだろう。
「で、〆(シメ)の、チ。このチは、痴(オロ)か、愚痴(グチ)、の、『痴(チ)』。つまり、無知」
ん~。
欲望、怒り、無知。の、この、トンジンチ、トリオ。こんな私でも、かなり厄介な三つの毒だと思うし、権力者たちがこのトリオに塗れてしまったとしたら、きっと、絶望的な気持ちになってしまうだろうとも思う。
「さすがお釈迦さん、鋭く、いいトコ突いてくるよな~」
お釈迦さんの言葉なんだ。
「だけど、お釈迦さんには申し訳ないが、我々は、どうしても、この三毒を払拭できないわけよ」
ん、ん~。
残念ながら、悲しいかな、理想は、あくまでも理想だということか。
「あるお坊さんの受け売りなんだけれど。たとえば、貪欲。そう簡単には払拭なんてできそうにないだろ」
ん、ん、ん~。
おっしゃる通り、正直、できそうにない。
「だけど、だけどだ。たとえ、仮に、そう易々と手を付けてはいけない貴重な水であるにもかかわらず、辛抱たまらず飲んでしまったとしても、せめて、ソレを毒にして出す蛇ではなく、乳にして出す牛でありたい、と、思ってはいるんだけどね」
(つづく)