はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と九十七
「パンノミミ リロン」
「たとえば食パンの」
「えっ?」
「そのパンの耳を粗末にしない、どころか、むしろ、本体の部分よりも美味しくいただく、みたいなコトが、きっと、この星に、この星の未来に、とって、大切なコトなんだろうな」
いつもの唐突さで、面舵いっぱい、一気に話題を変えてみせた、Aくん。政治家は斯(カ)くあるべし、から、の、パンの耳だけに、さすがに面喰らう。
「野菜も、どうすれば生ゴミにしなくて済むか、ってコトを、この頃になって、ようやく、考えるようになったんだよな。メチャクチャ遅れ馳せながらだけれど」
メチャクチャ遅れ馳せながらでも、そう考えるようになっただけで、Aくんはエライと思う。普通、そんなコト、まず考えない。
「そのためには絶対、無農薬がイイわけで、できれば自分で野菜づくり、が、好ましいのだろうけれど、残念ながらそうもいかなくて。できる範囲内で無農薬野菜を購入するように、と、とりあえず決めてからは、できる限り、野菜は、皮ごと丸ごと食べるようとはしている」
できれば、とか、できる範囲内で、とか、できる限り、とか、で、イイと思う。最初から高い目標を設定してしまうと、たいてい挫折してしまうから。
「僕はね、コレを『パンの耳』理論と呼んでいる」
パ、パンの耳?、あ、あ~、パンの耳、理論、か~。
「もったいないからパンの耳も食べる、ではなくて、むしろ本体部分よりも美味しく『耳』をいただく、というその発想の転換。とてもイイと思います」
「お褒めいただき、ありがとう。嬉しいよ。で、遅れ馳せながら気付いたのだけれど、野菜は、皮ごと野菜が圧倒的に旨い。しかも、栄養価もウンと高くなるというから、一石二鳥、言うことなしだ」
「そんな上手い具合に一石二鳥なら、プラスチックゴミを減らすコトよりは容易いかもしれませんね」
「あ~、プラスチックゴミね、アイツは強敵だからな。いくら頑張っても、毎週毎週スゴい量が溜まってしまう」
「生ゴミを減らす。もちろん、プラスチックゴミ同様、努力は必要だと思いますが、ヤリようによっては充分にヤレる。そんな気がします」
「まずは、とりあえず、パンの耳理論で、生ゴミ撲滅に頑張ってみるよ」
(つづく)