はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と三十七
「カントリー トイウ キョク ガ スキナンデス」
「『カントリー』という曲が好きなんです」
Aくんに、負けないぐらいの唐突さで口火を切らせてもらう。
「おっ、意外だな。君がカントリーとはね」
この感じ、間違いなく勘違いしている。
「あのカントリーじゃ、ありませんよ」
少し怪訝(ケゲン)な表情を見せる、Aくん。
「カントリーと言えば、普通、あのカントリーだろ。違うのかい」
「おそらく、おっしゃってるカントリーとは違うと思います」
ますます怪訝感が充満する、Aくん。
「キース・ジャレットの、カントリーという曲が、好きなんです」
「あ~」
一気に表情が和らぐ、Aくん。
ドコまでもハードロックなAくんも、さすがにキース・ジャレットのコトは知っているようだ。
「アドリブとは思えないアドリブで一世を風靡したピアニストだよね。ケルンコンサート。そう、ケルンコンサート。オーディオ命の友人の家で、しかもバカでかいJBLのスピーカーで、聴かせてもらったことがある」
ほ~。
「そうです。そのキース・ジャレットのカントリーです。ソロでも演奏されているとは思いますが、私が推したいのはカルテットによるモノ。レコードジャケットもドンピシャで、そこかしこから漂う北欧感も含めて、このレコードのこの曲が、演奏が、ホントに好きなんです」
「へ~。でも、能楽好きの君らしい、と、言えなくもないか」
ん?
能楽好きの、私、らしい?
「ケルンコンサートしか聴いたことはないけれど、なんとなく共通するモノを感じる」
そんなコト、思ったことも考えたコこともなかった。
能、と、キース・ジャレット、か~。
・・・
ソレ、言えるかも、しれない。
よし、明日は、久々に実家に帰って、レコード盤に針を落としてみるか。
・・・
ん~。
政官民、悲しくなるぐらい乱れまくりのこのご時世なだけに、キースの、そのクールなようでいてエモーショナルなピアノに、切なく絡みつくヤン・ガルバレクのサックス、が、田舎の田園風景を懐かしむ思いとはまた別の、「おい、国よ、大丈夫か。頼むよ、ちゃんとヤッてくれよな」みたいな、そんな感じにも聴こえてきそうな気がするだけに、余計、無性に聴きたくなる。(つづく)