はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と十九
「キョクガクアセイ!」
なんと平均視聴率が30%超という伝説のテレビドラマ『寺内貫太郎一家』と言えば、やっぱり、その主役を務めた小林亜星。その巨漢にモノを言わせて、昭和の頑固親父を見事に演じ切ってくれていた、とAくん。彼の口からテレビドラマの話題が発せられることは、珍しい。
「そんな小林亜星は、CMソングでも図抜けた才能を発揮していて、とくに『ワンサカ娘』は屈指の名曲。一節(ヒトフシ)唸って差し上げようか」
もちろん、電光石火で丁重にお断りしようとしたのだが、それ以上の電光石火さで、すでにAくん、箸をマイクに、妙なコブシをイヤほど回しながら歌い始めていたのである。
ドライブウェイにハルがくりゃっ
イェイェイェイェイイェイ
イェイェイェイェッ
プ~ルサイドにナツがくりゃっ
イェイェイェイェイイェイ、イェッ!
いいわ~ん。
レ~ナウ~ン
オシャレっでシックな
レナウンむすめが
ワンサカワンサカ
ワンサカワンサカ
イェ~イ
イェ~イ
イェイェ~イェ~イェ~
わお~。
イ、イヤ~、不覚にも聴き入ってしまった。
「ふ~、一節唸っただけで息切れしてしまう。きっと年のせいだな」
イヤほど熱唱してしまうから、そりゃ、息も切れるでしょうよ。と、とりあえず、心の中で突っ込ませてもらう。
「西の浪花のモーツァルト、キダ・タローに、東の巨漢、小林亜星。CMソング業界に煌めく巨星が二つ。たいしたものだよ、まったく」
煌めく二つの巨星、か~。
たしかに、理屈抜きに素晴らしい。
しかし、ナゼにユエに、この今、突然、ワンサカ娘なのか、小林亜星なのか。ソコのところが全くもってナゾのままだ。
するとAくん、そのナゾを解くヒントを、ユルリと語り始める。
「あくまで寺内貫太郎のイメージなのだろうけれど、巨漢アセイは頑固一徹。己の考えを変えなさすぎるきらいはあるものの、世間の動向に、時勢に、阿(オモネ)ることも迎合することもない。しかし、そのもう一方のアセイである『曲学阿世(キョクガクアセイ)』は、この世をズル賢く生き抜いていくためであれば、真実も正義も捻じ曲げ、そのついでに魂だってナンだって売りまくる、というわけだ」
ん~・・・なるほど。こんな今だからこその、ワンサカ娘であり、小林亜星なわけか。そうか~、そういうことか。ナゼか、妙に納得してしまう。
そして、もう一つの、煌めく二つの巨星。小林亜星と、曲学阿世。
しかしながら、後者、曲学阿世のその煌めきは、目一杯怪しく、ダークに淀んでいる。(つづく)