ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.988

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と十九

「キョクガクアセイ!」

 なんと平均視聴率が30%超という伝説のテレビドラマ『寺内貫太郎一家』と言えば、やっぱり、その主役を務めた小林亜星。その巨漢にモノを言わせて、昭和の頑固親父を見事に演じ切ってくれていた、とAくん。彼の口からテレビドラマの話題が発せられることは、珍しい。

 「そんな小林亜星は、CMソングでも図抜けた才能を発揮していて、とくに『ワンサカ娘』は屈指の名曲。一節(ヒトフシ)唸って差し上げようか」

 もちろん、電光石火で丁重にお断りしようとしたのだが、それ以上の電光石火さで、すでにAくん、箸をマイクに、妙なコブシをイヤほど回しながら歌い始めていたのである。

 

 ドライブウェイにハルがくりゃっ

 イェイェイェイェイイェイ

 イェイェイェイェッ

 プ~ルサイドにナツがくりゃっ

 イェイェイェイェイイェイ、イェッ!

 いいわ~ん。

 レ~ナウ~ン

 レナウンレナウンレナウンむすめがっ

 オシャレっでシックな

 レナウンむすめが

 ワンサカワンサカ

 ワンサカワンサカ

 イェ~イ

 イェ~イ

 イェイェ~イェ~イェ~

 

 わお~。

 イ、イヤ~、不覚にも聴き入ってしまった。

 「ふ~、一節唸っただけで息切れしてしまう。きっと年のせいだな」

 イヤほど熱唱してしまうから、そりゃ、息も切れるでしょうよ。と、とりあえず、心の中で突っ込ませてもらう。

 「西の浪花のモーツァルトキダ・タローに、東の巨漢、小林亜星。CMソング業界に煌めく巨星が二つ。たいしたものだよ、まったく」

 煌めく二つの巨星、か~。

 たしかに、理屈抜きに素晴らしい。

 しかし、ナゼにユエに、この今、突然、ワンサカ娘なのか、小林亜星なのか。ソコのところが全くもってナゾのままだ。

 するとAくん、そのナゾを解くヒントを、ユルリと語り始める。

 「あくまで寺内貫太郎のイメージなのだろうけれど、巨漢アセイは頑固一徹。己の考えを変えなさすぎるきらいはあるものの、世間の動向に、時勢に、阿(オモネ)ることも迎合することもない。しかし、そのもう一方のアセイである『曲学阿世(キョクガクアセイ)』は、この世をズル賢く生き抜いていくためであれば、真実も正義も捻じ曲げ、そのついでに魂だってナンだって売りまくる、というわけだ」

 ん~・・・なるほど。こんな今だからこその、ワンサカ娘であり、小林亜星なわけか。そうか~、そういうことか。ナゼか、妙に納得してしまう。

 そして、もう一つの、煌めく二つの巨星。小林亜星と、曲学阿世

 しかしながら、後者、曲学阿世のその煌めきは、目一杯怪しく、ダークに淀んでいる。(つづく)