はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と九十九
「ハシタガネ ナラ ハンザイ ニハ ナラナイ! ナラナイ?」
「額の問題ではない。業者との関係は常にクリーンに。とくに金品の授受は絶対に御法度、くれぐれも気を付けるように。と、当時の校長に、耳にタコができるぐらい何度も何度も言われたもんだ」、とAくん。
当たり前のコトを宣っておられるようにも聞こえるが、Aくんがまだ若かりし頃、あの当時独特の境界線上の微妙なコトで、結構、その校長先生とモメたらしい。
「当時は、まだ、今みたいに事務室が、出された起案書に沿って業者に発注する、というシステムではなかった。少なくとも美術科は、僕が直接、業者に発注していたわけ」
あ~。
だから、境界線上の微妙なコトも起こり得るということか。
「となると、どうしても、学校の先生と業者との癒着、起こりがちですよね」
「癒着と言われてしまうとソレまでだが、おかげで、イロイロと融通してもらったんだよな」
「でも、ソレ、癒着ですよね」
「癒着じゃなくて、融通。当時は、業者からナゼか定価でしか買えなかった。マケてもらうことさえ癒着と、ひょっとしたら収賄と、みられていたのかもしれない。でだ、僕は、マケてもらえないなら数を増やしてよ、と、お願いしていたわけ。予備の画用紙やら粘土やらがフンダンにあるって、生徒にとってイイことだし」
さすがに、予備の分まで教材費を徴収するわけにはいかないだろうから。
「と、なると、おっしゃる通り、生徒にとって好都合な『融通』なのかもしれませんね」
「だろ。でも、ナゼ、校長の耳に入ったのか未だにわからないんだが、呼び出されたわけよ、校長室に」
「ダメなんですか。やっぱり、やっぱり癒着なんだ」
「いやいや、ソレは違う。癒着じゃなくて、融通。ただ、肝心要の校長が、全くもって融通が利かなかっただけのこと」
うわっ。
「悲劇ですね、ソレって」
融通の利かない上司ほど、タチが悪いものはない。
「そう、悲劇。絵の具を忘れた生徒用に、いくつか絵の具セットも、コッソリ寄付をしてもらったりもしていたんだけれど、ソレも含めて全部、ダメ!、ダメ!、ダメ!、と、もう、ウルサイウルサイ、ホントにウルサかったんだよな~」
あっ。
「そういえば、先日、ニュースかナニかで、元首相ともなると、数百万円程度では検察は動き辛い、みたいなことを宣っていましたよ」
「はあ?」
「それ相応の額でないと、ナンとでもゴマカされてしまうらしくて」
「な、なんだよ、ソレ。数百万円は端金(ハシタガネ)か?。違うだろ。ムカつくよな~。コッチは、画用紙や粘土や絵の具でも、癒着だ~、収賄だ~、などと、グダグダと、グダグダと、言われ続けていたというのに」
「分相応の収賄、ってのがある。ということなんでしょうね」
(つづく)