はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と七十二
「トシヨリハ インタイセヨ!」
「年寄りは、早々に引退せよ!」
えっ!?
「ちょっと語弊があるかな」
「かなり語弊があるでしょ」
「じゃ、言い換えよう。政財界で権力を握るお年寄りたちは、トットと引退せよ!」
ん?
「過去の成功体験が忘れられず、その呪縛から逃れられないお年寄りたちが、次の一手を打てるとは、到底、思えない」
ん~。
もちろん、一概には言えないだろうけれど、とくにこの国の、政治家や官僚たちの著しい劣化や大企業の混迷と停滞を見るにつけ、Aくんのその指摘、まんざらおカド違いではないように思えなくもない、かな。
「だからと言って、じゃ、若者たちに任せれば全てが上手くいく、という単純なモノでもないところが、コレまた実に厄介なトコロなんだがな」
たしかに、そういった権力老人を、ソックリそのまま若者にしたようなのが、結構いたりするのもまた残念な現実。
「働きたいうちは、無理のない範囲で働く。ソレが多くの人たちのためになっているのなら尚のこと。引退などする必要はない。そういったお年寄りたちの頑張りのおかげで助かっている分野は、そこかしこにある。でも、でもな~」
助かっている、分野、か~。
たとえば、農業。
若い人たちの嬉しい台頭もあるにはあるが、まだまだ老練な年配の方々に期待しなければならないのもまた残念な現実。
たとえば、祭り。
私よりウンと年上の知り合いは、引退など許されるはずもなく、まだまだある祭りの中心人物。おそらく彼がいなければ、その伝統は、もう、守られなくなるような気がする。というこのコトもまた残念な現実。
ほんの少し考えてみただけでも、このように「残念な現実」は、次から次へと目白押しだ。それほど、お年寄りたちの経験と知識と技量は、当然のごとく、若者離れが深刻な分野において、まだまだ頼らざるを得ない貴重な戦力だということである。
しかし、そのもう一方で、ある分野に対して「でも、でもな~」と重く呟くAくんのその指摘も、思いも、イヤというほどよくわかる。
するとAくん、短い沈黙にピリオドを打って、一点の曇りもなく、またまたトドメを刺す。
「やっぱり、あえて、あえてもう一度だけ言わせてもらおう。政財界で権力を、ほとんど腐りかけた権力を、悪臭放つ権力を、まだまだ握りたがる、そんなお年寄りたちは、トットと、トットと引退せよ!」
(つづく)