ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.940

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と七十一

「ブタイシタ ノ ナラク

 奈落(ナラク)。

 奈落の底。

 仏教用語的には、あの、恐ろしい「地獄」ということになるのだろうけれど、こと歌舞伎などの舞台に関しては、幸い、そういうことにはならない。

 回り舞台や迫(セ)り出しなどの画期的な装置からもわかるように、なくてはならない、縁の下、ならぬ、舞台下の力持ちであり、人知れず、華やかな表舞台を支え続けている。

 そんな、奈落。

 では、ナゼ、舞台下の地下空間を「奈落」と呼ぶようになったのか。

 「歌舞伎などの舞台や花道のその下の空間を、奈落って言うじゃないですか」

 「ならく?。あ~、奈落、奈落ね」

 「ナゼ、奈落と呼ぶようになったのでしょう」

 「なぜ、奈落と呼ぶように、ね~。・・・、そりゃ、やっぱり、華やかなる表舞台に身を置く者たちへの戒めなんじゃないの」

 「戒め?」

 「そう、戒め。己の力を、人気を、過信して、置かれている状況に甘えて、舞台を軽んじたり、調子に乗り過ぎたりしないように、奈落が、地獄が、常に舞台下でパックリと口を開けているんだぜ、気を付けろよ~、って感じかな」

 なるほど、華やかな表舞台だけに、戒めとして「奈落」もまた必要、ということか。

 なるほど、なるほどな~。

 コレは、舞台に限った話ではないな。肝に銘じておかないと。  

(つづく)