はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と七十一
「ブタイシタ ノ ナラク」
奈落(ナラク)。
奈落の底。
仏教用語的には、あの、恐ろしい「地獄」ということになるのだろうけれど、こと歌舞伎などの舞台に関しては、幸い、そういうことにはならない。
回り舞台や迫(セ)り出しなどの画期的な装置からもわかるように、なくてはならない、縁の下、ならぬ、舞台下の力持ちであり、人知れず、華やかな表舞台を支え続けている。
そんな、奈落。
では、ナゼ、舞台下の地下空間を「奈落」と呼ぶようになったのか。
「歌舞伎などの舞台や花道のその下の空間を、奈落って言うじゃないですか」
「ならく?。あ~、奈落、奈落ね」
「ナゼ、奈落と呼ぶようになったのでしょう」
「なぜ、奈落と呼ぶように、ね~。・・・、そりゃ、やっぱり、華やかなる表舞台に身を置く者たちへの戒めなんじゃないの」
「戒め?」
「そう、戒め。己の力を、人気を、過信して、置かれている状況に甘えて、舞台を軽んじたり、調子に乗り過ぎたりしないように、奈落が、地獄が、常に舞台下でパックリと口を開けているんだぜ、気を付けろよ~、って感じかな」
なるほど、華やかな表舞台だけに、戒めとして「奈落」もまた必要、ということか。
なるほど、なるほどな~。
コレは、舞台に限った話ではないな。肝に銘じておかないと。
(つづく)