ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.813

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と四十四

「シャンテ!」

 たとえば焼かれたフランスパンが、窯から出されたそのあとで、自ら、更に一層美味しく仕上げる、という、必須の最終行程がある、と、語り始めたAくん。どちらかというと私と同じく「ごはん党」、「おこめ党」、で、あるに違いないAくんの口から、フランスパンなどというヨーロピアンな単語が飛び出てきたものだから、少々驚いてしまう。

 「私の美味しさはこんなもんじゃないわ。もう少し待っててね。最後の仕上げにかかるから」

 「フ、フランスパンが、そんなことを言い出すのですか」

 「言い出す、言い出す。でも、言い出す、というよりは、歌い出す、かな」

 「う、歌い出す!?、フランスパンが歌い出すのですか」

 「そう。あたかもミュージカルのように、歌い出す」

 なんか凄い話になってきた。

 「それを、シャンテ、って、言うみたいなんだけれど、シャンテはフランス語で、歌う。まさに、歌う、歌うんだよ、フランスパンが、チリパキピキチリパキピキと、ね」

 シャンテ、シャンテか~。

 「僕はね、子どもたちにも、この、シャンテの時間が必要だと思っている」

 ん?

 「トントントントンと次へ次へと進んでいけばいいってもんじゃない」

 ん~。

 「チリパキピキチリパキピキの時間があってこそ、ナニもカもがグググッと凝縮され、熟成され、そして、身につく、身になる、ってわけだ」

 ん~ん~ん~ん~。 

 そのシャンテ。「振り返り」、と、言い換えてもいいかもしれない。ユルリとした振り返りが、学んだモノをもっともっと美味しくする、ということなのだろう、きっと。(つづく)