はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と四十
「ホップ スモールステップ ジャ~ンプ!」①
♪お~い~らっの~
と~も~だっちゃ
ぽんぽこぽんのっぽ~ん
わっ、や、やばい。
私の拙(ツタナ)い歌声を聴かれてしまったようで、その歌の続きを楽しげに歌いながらAくん、奥から舞い戻ってくる。
「証城寺の狸囃子(バヤシ)なんて歌ったりして、随分とご機嫌じゃないか」
「そ、そんなこと、ないです」
またまた顔が熱くなるのがわかる。
「たしか、野口雨情(ノグチウジョウ)だったよね」
「そ、そうなんですか」
そんな名前、初めて耳にする。
「だったと思うがな~」
するとAくん、ソレとはまた別の歌を声高らかに歌い出す。
♪しゃ~ぼんだっま
と~ん~だ~
や~ね~ま~で~
と~ん~だ~
やねまっで
と~ん~で~
こっわっれって
き~え~た~
「シャボン玉。たしか、コレも彼の作詞。可愛くて、なんか切なくて、いい歌だよな~」、と、少し大きめの声で呟きつつ、トンと小皿を一枚、テーブルの上に置く。
「僕の友人のお手製のメンマ。ピリ甘辛テイストが、酒のアテにもご飯のお供にも絶妙に、合う」
「あ~、シナチクですね」
「そうそう、それそれ。でも、もう、あまり、その言い方はしないかも」
「えっ!?。ナニか理由でもあるのですか」
「詳しくは知らないんだが、シナチクのシナは、志那。志那は、過去において差別的な意味合いで使われたこともあるみたいだからな」
なんだか口の中にも胸の内にも苦いモノが広がっていく。
ナゼ、人類は、差別なるものをこの世に生み落としてしまったのだろう。そして、ナゼ、おもわず、差別に興じる道を、選んでしまうのだろう。
そんな私にAくんは、「ま~ま~ま~ま~、そんな怖い顔をせずに、とにかく摘(ツマ)んでみてよ。少なくとも、そのメンマには、ナンの罪もないんだから」、と。
たしかにその通りではあるけれど、なんとも複雑な思いを払拭できないまま私は、とりあえず一つ、箸で摘み上げてみる。(つづく)