ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.786

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と十七

「ツカレハテマシタ」

 嘘偽りなく、心の底から「疲れ果てました」、と、言わざるを得なくなってしまったその人に対して、誰が、「もう少し頑張りなさいよ」、などと、言えるだろうか。今ひとたび、その人の口から零れ落ちた「疲れ果てました」を、より重く受け止め、より深く考えようとしない限り、おそらく、悲劇は、何度も繰り返される、とAくん。その「疲れ果てました」の行き着いた先で起こってしまった、余りに切なく辛いニュースを耳にする度に、そう思うのだ、と言い添える。

 目一杯重く語り始めたAくんに、「疲れ果ててはいけない、と、思うのです」、と私。

 ん?、という表情のAくん。

 その表情に、少し、動揺する私。そうでありながらも挫(クジ)けず、自分の思いを、どうにかして伝えようと試みる。

 「ホントに真面目に生きてきた、頑張ってきた、にもかかわらず、どうにもままならず、疲れ果ててしまったとして、それでもそれは、本人の責任ですか、自己責任ですか、自助ですか」

 するとAくん、ユルリと、こう返す。

 「疲れ果ててはいけない、と、僕も思う。というか、それでは誤解を招きそうだから、あえて言い換えるなら、つまり、疲れ果ててしまうような、疲れ果てさせてしまうような、そんな社会ではダメだ、ということだ」

 Aくんのアシストで、ようやく、私が伝えたかった思いの輪郭が、スッキリとシャープになる。

 そして、あらためて、問いたくなる。

 社会、ってナンだろう。

 ホントに真面目に生きてきた、頑張ってきた、人たちが、追い詰められて、力なく、「疲れ果てました」、と、吐き捨てることしかできないような、社会、って、いったい、ナンなのだろう。(つづく)