ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.705

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と四十六

「ナニガワルイ ドコガワルイ」①

 ソレは、太古よりDNA に刷り込まれている、としか思えない、生き抜くための自己防衛本能なのかもしれない。

 Aくんの「むしろマナーパワー」理論に聞き入っているうちに、少しピント外れかもしれないけれど、ふと、ソレに対して、そんなコトを思ってしまう。

 だから人は、攻撃しやすい弱者を見つけては、ソコを突いて突いて突きまくる、ということに長(タ)けに長けている、のではないだろうか。ドンドンとそんな思いが膨らんでいく。

 「ある居酒屋に、やたらと酒癖が悪い客がいたとします」、と、目一杯唐突に、私。

 「おっ、新手のシチュエーションクイズかい」、と、怯むことなく返してくる、Aくん。

 ココは、聞こえないフリをして話を続ける。

 「その客、だんだんと声が大きくなる。口調も態度も荒れてくる」

 「ときどき見掛けるよな~、そういうの」

 さらに聞こえないフリをする。

 「ついに、他の客と揉(モ)め始める、もう店内の雰囲気は最悪」

 「まさに、ハズレ、ってヤツだな。違う店に行けば良かったと後悔さえしてしまう」

 さらに、さらに聞こえないフリをする。

 「コレって、ナニが、ドコが、悪いって思いますか」

 「えっ」

 突然、質問されたものだから、さすがに少し面喰らった様子の、Aくん。

 「そ、そりゃ~、酒癖の悪いその客だろ、違うのかい」

 「正解!、と言いたいところですが、ところが、こういうふうに考える人もいる、という、そんな、話です」

(つづく)