はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と四十六
「ナニガワルイ ドコガワルイ」①
ソレは、太古よりDNA に刷り込まれている、としか思えない、生き抜くための自己防衛本能なのかもしれない。
Aくんの「むしろマナーパワー」理論に聞き入っているうちに、少しピント外れかもしれないけれど、ふと、ソレに対して、そんなコトを思ってしまう。
だから人は、攻撃しやすい弱者を見つけては、ソコを突いて突いて突きまくる、ということに長(タ)けに長けている、のではないだろうか。ドンドンとそんな思いが膨らんでいく。
「ある居酒屋に、やたらと酒癖が悪い客がいたとします」、と、目一杯唐突に、私。
「おっ、新手のシチュエーションクイズかい」、と、怯むことなく返してくる、Aくん。
ココは、聞こえないフリをして話を続ける。
「その客、だんだんと声が大きくなる。口調も態度も荒れてくる」
「ときどき見掛けるよな~、そういうの」
さらに聞こえないフリをする。
「ついに、他の客と揉(モ)め始める、もう店内の雰囲気は最悪」
「まさに、ハズレ、ってヤツだな。違う店に行けば良かったと後悔さえしてしまう」
さらに、さらに聞こえないフリをする。
「コレって、ナニが、ドコが、悪いって思いますか」
「えっ」
突然、質問されたものだから、さすがに少し面喰らった様子の、Aくん。
「そ、そりゃ~、酒癖の悪いその客だろ、違うのかい」
「正解!、と言いたいところですが、ところが、こういうふうに考える人もいる、という、そんな、話です」
(つづく)