ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.603

はしご酒(Aくんのアトリエ) その四十四

「ボウキャク ノ ナヤンデイルンダールジン!」

 中学校の社会の授業で学んだ、2万年から4万年ぐらい前に絶滅したとされるネアンデルタール人、その固有のある遺伝子が、嵐のように吹き荒れる、あるトンでもない感染症のその症状と、ナニかしらの関係があるなでは、と、まことしやかに巷で囁かれたりしている。

 つまり、ネアンデルタール人そのものは絶滅してしまっているが、なんと、その遺伝子は、しぶとく脈々と受け継がれ続けてきた、というから、なんとも実に興味深い。

 そんな、なんとなく今、ちょっとホットなネアンデルタール人。残念ながらそのネアンデルタール人との関係性は、限りなく微妙ではあるのだけれど、Aくん命名の「ナヤンデイルンダール人」もまた、限定的ながら、ごく身近な界隈で、ほんの少しだけ話題になりつつある、という。

 「あの、ナヤンデイルンダール人、って、結局、この星の救世主になり得るのでしょうか」、と私。

 「は、は、はい!?」

 素っ頓狂(トンキョウ)とは、まさに、こんなことを言うのだろうと思われる、そんな、ドンピシャの素っ頓狂顔で、Aくん。

 「以前、救世主になり得るのは、北京原人でも明石原人でもなくて、ナヤンデイルンダール人なんだ、って、おっしゃってましたよね」

 「え、え、ええ!?」

 まさか、忘れている?

 「ほら、シモジモじゃないエライ人たちが、悩むことを、心を痛めつつ熟考することを、忘れかけている、放棄しかけている、って、熱く語っていたじゃないですか」

 「ん、ん、んん!?」

 まちがいない、忘れている!

 たしかに、あのとき、かなり呑んでいたみたいだから、スッカリ忘れていてもおかしくはないか。 

 するとAくん、「で、そのときの僕は、そのナヤンデイルンダール人なるもののいったいナニを、熱く語っていたわけ?」、と、丁重に、どころか、かなりの上から目線で尋ねてくる。

 「心の底から悩むことが、弱者に寄り添うこと。悩まずして、新たなる突破口を切り開くことなど、あり得るわけがない。と、少し恥ずかしくなるぐらいの音量で、豪語されてましたけどね~」

 どうにも誤魔化しようのない完全なる忘却の彼方、に、さすがに照れもあるのだろう。Aくん、慌てて両方の酒器に酒を注ぎ入れると、やにわに・・・

 「その、ナヤンデイルンダール人に、カンパイ!」

(つづく)