はしご酒(Aくんのアトリエ) その四十四
「ボウキャク ノ ナヤンデイルンダールジン!」
中学校の社会の授業で学んだ、2万年から4万年ぐらい前に絶滅したとされるネアンデルタール人、その固有のある遺伝子が、嵐のように吹き荒れる、あるトンでもない感染症のその症状と、ナニかしらの関係があるなでは、と、まことしやかに巷で囁かれたりしている。
つまり、ネアンデルタール人そのものは絶滅してしまっているが、なんと、その遺伝子は、しぶとく脈々と受け継がれ続けてきた、というから、なんとも実に興味深い。
そんな、なんとなく今、ちょっとホットなネアンデルタール人。残念ながらそのネアンデルタール人との関係性は、限りなく微妙ではあるのだけれど、Aくん命名の「ナヤンデイルンダール人」もまた、限定的ながら、ごく身近な界隈で、ほんの少しだけ話題になりつつある、という。
「あの、ナヤンデイルンダール人、って、結局、この星の救世主になり得るのでしょうか」、と私。
「は、は、はい!?」
素っ頓狂(トンキョウ)とは、まさに、こんなことを言うのだろうと思われる、そんな、ドンピシャの素っ頓狂顔で、Aくん。
「以前、救世主になり得るのは、北京原人でも明石原人でもなくて、ナヤンデイルンダール人なんだ、って、おっしゃってましたよね」
「え、え、ええ!?」
まさか、忘れている?
「ほら、シモジモじゃないエライ人たちが、悩むことを、心を痛めつつ熟考することを、忘れかけている、放棄しかけている、って、熱く語っていたじゃないですか」
「ん、ん、んん!?」
まちがいない、忘れている!
たしかに、あのとき、かなり呑んでいたみたいだから、スッカリ忘れていてもおかしくはないか。
するとAくん、「で、そのときの僕は、そのナヤンデイルンダール人なるもののいったいナニを、熱く語っていたわけ?」、と、丁重に、どころか、かなりの上から目線で尋ねてくる。
「心の底から悩むことが、弱者に寄り添うこと。悩まずして、新たなる突破口を切り開くことなど、あり得るわけがない。と、少し恥ずかしくなるぐらいの音量で、豪語されてましたけどね~」
どうにも誤魔化しようのない完全なる忘却の彼方、に、さすがに照れもあるのだろう。Aくん、慌てて両方の酒器に酒を注ぎ入れると、やにわに・・・
「その、ナヤンデイルンダール人に、カンパイ!」
(つづく)