ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.588

はしご酒(Aくんのアトリエ) そのニ十九

「ヒトトシテ アマリニヒドクハナイデスカ」②

 するとAくん、「あっ、忘れていた」、と。

 「ど、どうしたんですか」

 「いぶりがっこいぶりがっこ

 「いぶりがっこ?」

 いぶりがっこ、いぶり、の、がっこう?

 初めて耳にする。

 アニメーション制作の、スタジオかナニかの関連施設か、と、一瞬思いはしたものの、ソレはないだろう、と、そそくさと、胸の内にしまい込む。

 「もちろん、貰い物なんだけどね。旨いんだよ、これが」、と言いながら、奥へと姿を消す。

 食べ物か~。そう思ったその尻から、どんな食べ物なんだろうという期待が、無節操にプクリと膨らむ。

 しばらくして、嬉しそうに小皿を片手に戻ってきたAくんの、その小皿にチョコンと鎮座する「いぶりがっこ」なるものは、あの「たくあん」が、寒風吹き荒(スサ)ぶ山あり谷ありの人生の中で、徐々に、酸いも甘いも噛み分けながら、己の身体に、深いシワと香りと色みとを刻み込んでいったかのような、そんな燻(イブ)し銀感満載の、長老の風格を醸し出していたのである。

 「これ、これ。ま、一つ、摘(ツ)まんでみてよ」

 香りがいい。

 燻したような、スモーキーなその香りに、心が踊る。

 歯応えもいい。

 たくあんを、より筋肉質にしたような、そんなマッチョな弾力に、更に一層、心が踊りまくる。

 スッカリ、いぶりがっこの虜になってしまいはしたけれど、でも、なぜAくんは、突然、この、いぶりがっこのことを思い出したのだろう。

 単なるタマタマなのか、それとも、・・・。そのことが、なんだか妙に気になってくる。(つづく)