はしご酒(Aくんのアトリエ) そのニ十三
「アナタニイワレタクナイ」②
するとAくん、「たとえば、覆面コメンテーター、なんて、どうだろう」、と。
「覆面コメンテーター、ですか」
「そう。大ざっぱな肩書き以外は素性を明かさない覆面コメンテーター」
「その謎のベールに包まれた覆面コメンテーターが、TVやネットや誌面で語るわけですか」
バカバカしい。
Aくんには申し訳ないが、一瞬、そう思う。けれど、よくよく考えてみると、それもアリか、とも、思えてくるから不思議だ。
「あなたに言われたくない、やら、アンタにソレを語る資格はない、やら、おまえが言うな、やら、から、ひょっとしたら解放されるかもしれないだろ」、と、Aくん。
解放されるかもしれない、か~・・・。
もし、解放されなかったとしたらどうなるのだろう、と、暫し考えてみる。
どうなるのだろう
どうなるのだろう
解放されなかったらどうなるのだろう
「解放されなかったらどうなるのだろう」
「あなたに言われたくない、の、連鎖、だろうな」
「えっ!?」
いつのまにか、私の口からは漏れ出てしまっていたようだ。
「所詮、人間なんて、多かれ少なかれ、叩けばホコリの出るカラダだろ。あなたに言われたくないなどと言われないほどの人間なんて、そうそういるもんじゃない。たいていは、感情的に、お互いに、あなたに言われたくない、と言い合って、罵(ノノシ)り合って、それで終わりだ」
そんなAくんの、「あなたに言われたくないの連鎖」理論に耳を傾けているうちに、ふと、お坊さんたちに、かなり失礼で乱暴な、ある諺(コトワザ)が頭に浮かぶ。
坊主憎けりゃ袈裟(ケサ)まで憎い
ソコから滲み出てくるものは、ソコにあるものは、嫌悪、憎悪、怒り、見下し、蔑(サゲス)み、差別、・・・。
「仮に、万が一、億が一、たとえ坊主が憎くても、いい袈裟は、いい!」
(つづく)