はしご酒(4軒目) その百と百と六十
「マスマス ミミ ヲ スマス」①
随分と昔、姉が自転車事故を起こしたことがある。
坂道を激走して転倒した、と、連絡を受けた私は、慌ただしく病院に駆け付ける。腕か肋(アバラ)かドコかを骨折したと聞いていたが、幸い、すでに、無事、手術を終え、全身麻酔による深い眠りについていた。
ホッとした、ということもあったとは思うのだけれど、眠る姉の枕元で、私は、「ドンくさいな~」とか「運動神経、ニブすぎ~」とか、好き勝手に言いたい放題に言いまくったりしていたのだけれど、その数日後に面会に行った際に、驚愕の事実が明らかになる。
「メチャクチャ酷(ヒド)いこと、言ってたでしょ」、と姉。
「そんなこと、言ってないよ、言うわけないだろ」、と、かなり焦りぎみに身の潔白を訴える私。
「聞こえてたんだから」、と姉。
聞こえていた?、聞こえていたのか。
まるで「寝てる寝てる詐偽」にでもあったかのような、そんな気分で立ち尽くす私。
そのあとで、調べてみると、たしかに、耳というものはそういうものであるらしく、最後の最後まで、シッカリと、しぶとく機能する、とある。
まさに、耳、恐るべし。
ところが、ところがである。シモジモじゃない、とくに政治関連のエライ人たちの議論などを聞いていると、どうも、本当にそうなのだろうか、と、首を傾(カシ)げたくなったりすることもまた、事実。
まさに、耳、危うし。
この、ナンともカンともな耳危うし感、ブチュブチュと音を立てながら、ますます膨張していく。(つづく)