ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.515

はしご酒(4軒目) その百と百と五十六

ハジメテ ノ オートクチュール

 周囲には、「♪そこに私はいません~眠ってなんかいません~」などと、偉そうに宣っているわりには、墓参りの際に、ナニかと思い出したりしながら手を合わせている、とAくん。

 そんな感じで、墓前で思い出すことの中に、少年少女合唱団に籍を置いていたときのエピソードがある、という。

 さすがに昔のことすぎて、その曲名は忘れてしまったが、今でも、サビの部分なんかは歌える、と、妙に胸を張るAくん。

 素直に、正直に、「少年少女合唱団のイメージは、全くないですね。第一、似合わない」、などと、言えるはずもなく、口から出た言葉は、「スゴいじゃないですか」。ま、小学生の頃の話なので、ひょっとしたら、とても可愛い合唱少年であったのかもしれないし。

 「そのとき、母親が、発表会用の服を上下、自ら仕立ててくれたわけ」

 「優しいお母さんですね」

 「でもね、そのときは、ちょっと、ガッカリしたんだよな~」

 「なぜ、ですか」 

 「お金持ちが着るような、そんなカッコいい服を、買ってもらえる、と、思っていたから」 

 「そんなものより、お母さんが仕立ててくれた服のほうが、ウンといいでしょ」

 「そうなんだけど、そんなこと、小学生に、わかるはずもなく。しかも、その半ズボン、大きかった。かなり大きくて、遠くから見ると、短めのフレアスカートみたいで。で、母親に聞いてみた。なぜ、こんなに大きいのか、って」

 「お母さんは、なんて?」

 「育ち盛りだから、来年も着れるように、って言うわけよ。結局、合唱団に参加したのは、その年だけだったんだけどね」

 短めのフレアスカートのような、大きめの半ズボンを穿(ハ)いた少年が、皆とともに声高らかに唱う姿を想像するだけで、微笑ましく思え、ホッコリとする。

 「ちょっと大きかったかもしれませんが、お母さんが仕立ててくれたから、それから何十年も経った、この今も、忘れ去ることなく、こうして思い出せるのではないですか」

 するとAくん、「考えてみると、はじめてのオートクチュール、だったかも。はじめてのオートクチュール~オカンとボクと、その時だけ、フレアスカートな半ズボン~」、と。

 「短編映画一本、撮れそうですね」

(つづく)