はしご酒(4軒目) その百と百と二十四
「ダサク モ オオイケレド」
駄作も多いけれど、いいものは、ホントに、いいんだよね、とAくん。
どうやら、Aくんには、お気に入りのアーティスト、絵描きさん、が、いるようなのだ。
「好きな絵描きさんなのに、駄作も多い、とか、言ったりするんですね」、と、少し、意地の悪い突っ込み方をしてみる。
「ま、僕の勝手な見解だから、誰かに迷惑をかけるわけじゃないし、当人も、随分と前に亡くなっているし、・・・でも、駄作も多いんだよ、マジで」、と、悪びれた様子など、微塵も見せない。
それでも、いい作品は、心底、大好きなんだ、と宣う。
岡山県出身とは思えない、その作品から、そこはかとなく漂う、秋から冬にかけての陸奥(ミチノク)感、の、そのヌルリとした寒々しさが、なんとも、気持ちいいらしいのだ。
「でもね、そんな駄作もまた、愛(イト)おしくなってくるわけよ。で、この感じが、人と人との関係においても、大切なことのような気がしているんだな」、とAくん。
「人と人との関係においても、ですか」、と私。
「そう。たとえば、駄作の方にばかりに、目がいく、と、しよう。駄作のことばかりが気になる。なにやら腹も立ってくるし、文句の一つも言いたくなってくる」
「なんとなく、恐ろしくなってきますね」
「そう、そうなんだけれど、本当の恐ろしさは、ココからなんだな」
「えっ、そうなんですか」
「そう、ココから。そして、そんなことを思っているうちに、お気に入りだった作品まで好きでなくなる。許せなくなる。なにやら腹も立ってくるし、文句の一つも言いたくなってくる」
Aくんが語るその感じ、人と人との関係においても、たしかに、あり得ることかもしれない。
「欠点にばかり目がいくことによって引き起こされた、まさに、悲劇、ですね」
「その全てが、同じ作者が生み出したものなんだから、いいものも、駄作も、みんな、愛おしい。というこの感じ、大切だと思うんだよ、僕は」
(つづく)