ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.379

はしご酒(4軒目) その百と三十

「ホケホケホケホケホケホケ」②

 ク~っ、シャープにキレていく感じが日本海っぽくていいな~、などと、わかったようなコメントを口走ったそのシリから、なんだか気恥ずかしくなり、首から上が熱い。

 すると女将さん、「純米無濾過の生貯蔵酒、もちろん、米も水もオール能登の逸品。このイカの塩辛にはピッタリだと思います」、と、私の首から上を優しくクールダウンするかのように言葉を添える。

 口の中が、イカだけに、スミからスミまで能登半島に染まる、みたいな、そんな感じだ。もちろん、もっと気恥ずかしくなりそうなので、心の中で思うだけに留めておくことにする。

 とにもかくにも、相性というものはあるもんだな、と、あらためて思ったりする。

 いつのまにか、口の中どころか頭の中まで能登半島一色となり、春の訪れを告げるウグイスのことなど、どこかへ飛んで行ってしまいかけていた、そのとき、またまた、またまた突然、Aくんが、いまひとたび乱入してくる。

 「梅の花がチラホラと咲き始めたころかな~、木々が生い茂る森に佇む大化の改新ゆかりの神社あたりを、ひとりでプラリプラリと散策していると」、と、少し懐かしそうに振り返りながら語り始めたAくん。

 「ホ~ホケ~、と、ウグイスが、春の訪れを爽やかに告げてくれようとしているぞ、などと思いつつ、耳を澄ましていると」、と続ける。

 「ホケホケホケホケホケホケなわけよ。間を空けて、今度こそ今度こそと、陸上競技かなんかのインターバルトレーニングのごとく、繰り返し繰り返し、何度も何度もホケホケホケホケホケホケと」

 「それです、それなんです、私が言いたかったのも。イカの塩辛のおかげで、完璧に記憶の遥か彼方へ吹っ飛ばされてしまったウグイスのホケホケホケホケホケホケ」

 Aくんも聞いたことがあるんだ、と、そう思ったとたんに、妙に嬉しくなる。

 「ホントに、何度も何度もホケホケホケホケホケホケ。地道に努力してるんだよな~ウグイスも、なんて思ったりしているちに、なんとなく切なく、そして、愛(イト)おしく思えてきて、頑張れ~、って、エールを送りたくなってくるのもまた親心というもんだと」、と、すっかりホケホケホケホケホケホケのウグイスのお父さんのようになってしまっているAくん。

 「でもね、諦めて、もうそろそろ帰ろうか、と思った、まさにそのとき」

 示し合わせたかのように、信じられないぐらいの絶妙のタイミングで、顔を見交わしたAくんと私、二人揃って同時に・・・

 「ホ~ホケッキョ」

(つづく)