はしご酒(4軒目) その百と二十九
「ホケホケホケホケホケホケ」①
四季が自慢のこの国の、季節の移り変わりの中でも、とりわけ春の訪れは、人々の心に、かなりのリラクゼーションとエナジーをもたらしてくれる。
そんな気持ちいいパワー溢れる春の訪れの象徴とも言えるものが、あのウグイスだと、私は思っている。ただしこのウグイス、なんの苦労も努力もすることなく、いとも簡単にササッと、「ホ~ホケッキョ」、と、春の訪れを告げることができる、というわけではないようなのである。
そんなことをブツブツと独り言(ゴ)つていると、それまで静かにチビチビとやっていたAくんが、突然、乱入してきたものだから、またまた驚いてしまう。
「このイカの塩辛、めちゃくちゃ旨いから」、と、その土っぽいザラッとした手触りの小鉢をスッとコチラに滑らせる。
塩辛とは思えないほどの透明感がプチプチと弾けているように見えた、そのイカの一片をつまみ上げて、口に放り込む。2軒目でいただいた、お兄さんお手製のイカの塩辛も、たしかに美味しかったのだけれど、ひょっとしたら、それをヒョイと上回ってしまうかもしれない。
「お刺身みたいな鮮度。イカそのものも、おっしゃる通り、めちゃくちゃ美味しいですよね」、と私。
「微かになんだけど、食べたあとにフワッとくる柑橘系のような香りもまた、いいんだよな~」、とAくん。
「能登半島にある家族経営の小さなお店でつくっておられるみたいですよ」、と女将さん、そう言いながら、同じ能登半島の地酒を、ポテッとした厚手のぐい呑みに、トクトクトクと注ぎ入れる。(つづく)