ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.355

はしご酒(4軒目) その百と六

「インネン!」

 「因縁(インネン)」という言葉の意味をご存知か、とAくん。

 もちろん、即答などできるはずもなく、なんとなく、チンピラに絡まれたりしたときのイメージみたいなものだけが、頭の中をウロウロしている。

 「宗教的な意味合いも強いらしいんだな、仏縁ね、仏縁」

 因縁だけでも困惑ぎみなのに、そこに仏縁なるものまで参戦してきたものだから、さらなる迷宮の世界に入ってしまいそうになる。

 「人との出会いに限らず、森羅万象、全ての出会いには、因があり、そして、縁がある、という教えだな」

 そもそも、その、因、と、縁、が、わからないのだから、Aくんのその説明は、私には、全くもって、なんの説明にもなっていないのである。

 それでもAくんは、容赦なく語り続ける。

 「良縁も悪縁も、全ては、あなたという因が、まずソコにあった上での縁なのだ、という、そんな感じらしい。ちょっと自信、なくなってきたけど」

 わからないなりに、思い切って問うてみる。

 「私という因が、全ての縁を引き寄せている、ということですか」

 ほんの少し、困ったような表情を見せたAくん、もう一段階スピードを落として、再び、さらにユルリと語り出す。

 「そこまでは言い切れないかもしれないけれど、全否定もできないような気がする。とにかく、だからこそ人は、様々な縁を通して、今まで感じなかったことが、感じられるようになったり、考えもしなかったことが、考えられるようになったり、するんじゃないか、と、ま、漠然とだけど、思ったりするんだよな~」

 バカみたいに絶好調なときには、決して見えることなどなかったものが、見ようともしなかったものが、その絶好調がナニかのために目の前からフッと消えた途端に、見え始めてくる、というようなことなのだろうか。そういうことならば、ボンヤリながら、わかるような気も、たしかにする。(つづく)