ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.343

はしご酒(4軒目) その九十四

「ニテヒナルモノ」

 面妖で濃厚な甘い蜜の香りを、猛烈に振り撒く悪魔の囁き「価格破壊」、に、かねてからAくんは、警鐘を鳴らし続けている。そして、この私も、おっしゃる通り、と、その警鐘を、微力ながら支持している。

 ただし、この価格破壊、あの手この手が駆使された企業努力の賜物(タマモノ)という側面もまた、否定しきれないまま、ソコにある。今まで、手を伸ばしても届かなかったモノが安価になり、身近なモノとなる、その喜びを、頭ごなしに否定することには、さすがに抵抗がある。

 しかしながら、あるパティシエの言葉が、しつこく、頭の中に、消えないまま、居続けている。

 「似て非なるもの」

 ほとんど同じように見える二つのモノであっても、実は、似て非なるもの、ということを意味する。

 その似て非なるものの功罪を、たとえば、食材のクオリティやら添加物の安全性やらの、やらやらを、コソコソせずに白日の下に晒す(サラ)さないことには、ソコに棲みつく怪しさを、払拭することなど、到底、できそうにない。

 「スイーツのような、その全容が見えやすいトコロでもそうなんだから、見えにくい、見えない、そんなトコロでの価格破壊がもたらす罪の深さは、おそらく、想像以上に滅法深い、というコトだな」、と、重く呟くAくんの表情に、手詰まり感さえ見て取れてしまうほど、その罪は、手を伸ばしても届かないぐらいの深みで、不気味に蠢(ウゴメ)いている。(つづく)