ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.313

はしご酒(4軒目) その六十四

「ブーム!」①

 女将さんの意地の一品である、らしい、その揚げ出し豆腐が、あまりにも神々しく光輝いて見えたものだから、おもわずゴクリと生唾を飲み込む。

 その「ゴクリ」という音が聞こえたのだろう、「お先にどうぞ」というAくんの声が、その香りと相まって、フワリとこちらまで届く。

 「では、お言葉に甘えて」と、一つ、その出汁とともに小皿に移す。そして、火傷をしないように心して、口に放り込む。

 「美味しい!、意地の、というより、むしろ、渾身の、一品、と、言ってもいいぐらい、ホントに美味しいです」

 あまりに私が絶賛するものだから、揚げ出し豆腐には消極的なAくんも、おもわず、口に放り込む。

 「ん~、たしかに、旨いな~これ」

 カウンター越しの女将さんの、ちょっとしたしたり表情が、妙に可愛らしく思えた。

 「揚げ出し豆腐ブーム到来!、も、あり得るかもしれませんね」、と私。

 「そのブームに後押しされて、揚げ出し豆腐専門店なんてのも、登場したりして」、とAくん。

 「さらに、チェーン展開、海外にも進出、世界を席巻、みたいなことになったら、どうします?」

 バカみたいに次から次へと揚げ出し豆腐談義で盛り上がる二人であったのだけれど、それはそれとして、その「ブーム」というワードが、なんとなく引っ掛かり、またまた、ボンヤリと考え始めてしまう。(つづく)