ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.286

はしご酒(4軒目) その三十七

「ハカナゲ トイウ カンジ ガ スキ!」①

 「はかなげ、って漢字、知ってる?」、とAくん。

 はかなげ?

 おそらく、今にも消え入りそうな、そんな漢字なのだろうけれど、見当もつかない。

 その漢字が好きなのだ、と言う。

 「なぜ、その漢字が好きなんですか?」、と私。

 「その漢字を知ったら、君も、好きにならずにはおられない、なんてことになるから」、と、ニンマリなAくん。

 すぐに教えてくれるのかな、と思って、心待ちにしていたのだけれど、あれやこれやの酢の物の中から、シメ鯖を一切れ、そのそばに鎮座していたミョウガとセットにしてパクつくAくんの口から、その「はかなげ」話の続きは、なかなかどうして、全くもって発っせられる気配はなく、そのままプツンと断ち切れてしまいそうな、そんな空気で満ちていく。

 「はかなげ」話だけに、はかなげなのだな、きっと、などと、バカみたいなことを思いながら、「先ほどのプチプチな奈良の上澄みをもう一杯」、と、女将さんに、私も負けないぐらいのニンマリで、告げる。(つづく)