はしご酒(4軒目) その三十
「ヨリソウソウ」①
いつになくテンションが低めで、愚痴やら文句やらのパワーの含有量も、いつもより少なめなように思える今宵のAくんではあるのだけれど、あの奈良の上澄みの蔵元が、手掛けたという米焼酎があるというので、それ、お湯割りでちょうだい、と女将さんに、ニンマリと、実に嬉しそうに告げる。
そして、いつ頼んだのか、いつのまにかAくんの前に置かれていた酢の物のあれやこれやの中から、やや厚めに切られた生々しいタコを一つ、添えられた酢味噌に軽くくぐらせて、口に放り込む。
「美味いよ、これ」
そう言いながらAくんは、その皿をスーっと、私の方に滑らせた。
「コンクリートと違って木は、建てられた後も湿度や温度の変化によって動く。だからこそ自分本意ではなく、木に寄り添わないとダメなんだ、という、ある木造愛溢れる建築家のこの言葉が好きなんだな~」、と、唐突感満載にAくん。
やっぱりAくんは、この唐突感満載のこの感じでなきゃ、と、あらためて思う私。そんなAくんに、私もまた、ニンマリと、する。(つづく)