はしご酒(4軒目) その四
「シバイゴヤ ト デンパケイ」④
女将さんお手製の酢の物の味は格別なんだ、と、嬉しそうに話しながら、2つのグラスにビールを注ぎ入れるAくんに、私はもう一度、「あんなところでなにをしていたのですか?」と、しつこく問うてみる。
そんな私に、まずはグラスを持つように、と促したAくんは、私のそのグラスに彼のグラスを軽くチンと当て、「カンパイ!」と宣った。それにつられて私も、気持ちが入りきらないまま、どうにかこうにか時間差「カンパイ!」で返す。
「借りてるんだよ」
「か、借りてるんですか!?」
「そう、縁があってね」
「縁が、ですか」
「いい感じの建物だろ、創作意欲も湧くんだよな」
「創作?、意欲、ですか」
「そう」
ほとんど「ですか」としか言っていない私の頭の中では、Aくんに、一体全体、なにが起こったというのだろう、という思いが、疑問が、なにかしらの有機物のようにブクブクと、膨らみ続ける。(つづく)