はしご酒(3軒目) その二十六
「ハシリ!」①
「旬は、まだまだ先ですが」
スッと目の前に出された、その見た目も香りも、秋を小さく丸めたような焼き栗に、おもわず「おっ」、と、声をあげてしまった。まさか、ここで、しかも、この時期に、(よく見かける甘栗ではない)焼き栗に出会えるとは、と、すっかりルンルン気分の私は、なかなかの焼き栗ファンなのである。
「小振りの山栗をローストしたものです。そのグラッパと、いい相性だと思いますよ」
寡黙なバーテンダーの声が、あまりにも素敵なので、おそらく、その声で説明されてしまったら、なにを出されても、全て美味しく見えてしまうだろうな、などと、思いつつ、その焼き栗を一つ頬張ってみる。そして、噛み砕いた焼き栗が口の中に残っているうちに、グラッパを少しだけ流し込んだ。
「美味い!」
たしかに美味いのである。マリアージュとは、まさに、こういうことを言うのかもしれない。
すると、「着物も、この焼き栗と同じなのよね」、とZさん。
なにが、どこが、同じなのか、その二つを、手早く頭の中に並べ、その共通点を見つけようと試みてはみたけれど、残念ながら、サッパリわからない。(つづく)