ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.171

お会計

 勘定を済ませて店を出る。

 私は、店に入るときのワクワク感とは一味違う、店を出る瞬間のこの感じもまた、妙に好きなのである。たしか久米仙人だったか、下界に舞い降りた、というか、美女に見とれて落っこちてしまった、そんな、その仙人のようなフワ~ッとした感じ、とでも言えばいいのだろうか。しかしながらその感じ、おそらく、そう簡単には分かってもらえそうにない。

 もちろん、そういう私も、下界に降りてきた仙人にお会いしたことも、ちょっと立ち話でもといったことも、残念ながらないわけで、不本意ではあるものの、致し方ないとは思う。致し方ないとは思うけれど、・・・でもやっぱり、下界に舞い降りた仙人のような、そんな、フワ~ッとした感じなのである。

 私より、ほんの少しだけ先に店を出ていたOくんは、待ち構えていたかのように、両手をス~っと伸ばしてきたかと思いきや、間髪入れずにギュ~ッと私を抱き締めた。いつものようにフワ~ッとしていた私は、さすがに少々驚く。

 そして、「楽しかったわ~、また呑もや~」と言いながら、私とは逆のその道を、ふらつく様子もなく、シッカリとした足取りで、帰っていく。

 私は、だんだんと小さくなっていくOくんの背中を、しばらく眺めていた。

(つづく)