はしご酒(2軒目) その五十四
「ヒトカワ ムキタイ」
古びた皮膚を、皮を、一皮剥(ム)くことで新たなる自分に、みたいな話を、ある若いお坊さんから伺ったことがある。
たしかに、かなり心洗われるイイ話ではあったのだけれど、その話の〆(シメ)の言葉、だけは、どうしても受け入れ難かったのである。
「けっして期待してはいけない」
ん?
けっして、期待してはいけない?
ナゼ、期待してはいけないのか。
期待することを捨てて、自分自身を一皮むく努力など、到底、私ごときには、できそうにない。
ナゼなのだろう。
先ほどから完全に存在感を掻き消して、聞き手に徹していたOくんに、思い切って尋ねてみる。
「ある若いお坊さんが、新たなる自分のために己の皮を一皮剥く努力は大切だと。しかし、けっして期待してはいけないと。なぜ、期待してはいけないのか。ソコのところが私には、どうしても解せないのです」
すると、Oくん、「そのお坊さんが言うてはる、期待したらアカン、の、その『期待』そのものが、ちょっとちゃうんやろな」、と。
期待そのものが、違う?
「どう、違うのですか」
「自分自身に、や、なくて、自分自身以外に、っちゅうことなんやろな~、きっと」、とOくん。
自分自身以外に?
あ、あ~。
自分自身以外に、けっして期待してはいけない、か~。
なるほど。
おそらく、その辺りの怪しいエライ人ではない正真正銘のエライ人であるならば、自分自身にも自分自身以外にも期待などせず、ただ、ひたすら、無心で、黙々と、己の一皮を剥く努力を重ねていけるのかもしれない。が、私たちのような一般ピーポーでは、残念ながら、そうはいかない。そうはいかないけれど、自分自身以外にだけは期待してはダメですよ、と、いう意味であったのか。
Oくんのおかげで、今までズッとモヤモヤしていた霧のようなモノが、一気に晴れたような気がする。
するとOくん、またまた、Aくん譲りの、あの、脳の前頭葉の老化丸出しで、トドメを刺す。
「ひとかわ、むきたい。むき、たい。む、きたい。無、期待。わ~。っちゅうことで、おまんのやろな~」
見事なまでに脳の前頭葉の老化臭、漂いまくるトドメではあるけれど、ナゼか、妙に、腑に落ちる。
剥きたい、は、無期待。無、期待、か~。
なるほど、なるほどな。
とはいっても、ヤヤもすると、どうしても、自分自身以外に期待してしまいがちだ。場合によっては、期待どころか、自分自身以外のせいにまでしてしまう。
そう。自分自身、以外の、せいにしてしまう。
ホント、情けなくなる。
でも、ココは踏ん張りたい。「無、期待」で、マジで踏ん張りたいと、思う。
(つづく)